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壱也とはこんなあっさりした関係だけど居心地は決して悪くない。
壱也とわたしの間には“友情のようなもの”が存在する。相談し合ったり、愚痴を言い合ったり。それがほかの人たちには深い関係のように見えるらしいけど、実際お互いのことはよく知らない。
なんて、ちぐはぐ。
でも自分では友達とは別枠の、なんていうか特別な関係だと思っている。男と女の生々しさが一切なくて、つかず離れずの一定の距離感は友達や恋人同士の煩わしさを省いてくれる。だけどいないとさみしい。言うならばよりどころみたいなものだろうか。
そんな特別枠の壱也にも言えないことがある。
わたしにはつき合っている人がいる。わたしはいま、その人に夢中なのだ。
ひとりになったわたしは彼に電話をした。
「今日はどうするの?」
『仕事が終わるのが九時頃になる』
「会うってこと?」
『だめなのか?』
「ううん。あんまり期待してなかったから」
壱也の誘いを断っておいてよかった。
『じゃあ、終わったら電話するから。そろそろ戻らないといけないんだ、ごめんな』
仕事中の彼は短めに会話を終わらせると電話を切った。
九時か。今日も遅いな。
わたしは帰る途中でスーパーに寄ることにした。買い物をすませると、ひとり暮らしのマンションに帰り、夕飯を作って彼が来るのを待った。
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