1.淫らに堕ちていく

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 部屋は1Kの間取りで、洋室の広さは六帖ほど。決して広くないので、家のなかのものは必要最低限に抑え、かなりシンプルな部屋だと思う。  スマホをいじりながら彼を待っていると、予定通り午後九時過ぎに部屋のインターホンが鳴った。  玄関のドアを開けるとやさしい彼の顔。手にはコンビニ袋があった。 「また買ってきたの?」 「だって疲れた身体には甘いもんだろ。明日香の分もあるよ」  そう言って彼は部屋へあがるとさっそくバスルームへ向かった。  わたしはコンビニ袋の中身を見て、なかに入っているものをさっそく冷蔵庫にしまう。缶ビールとシュークリーム。なんともアンバランスな組み合わせ。彼はいつもビールと甘いデザートをセットで買ってくるのだ。  バスルームからシャワーの音が聞こえはじめ、わたしは夕飯を温め直した。  今日は泊まっていくのかな。ビールを買ってきた日は“泊まる”のサイン。わたしはコンロにかけたお味噌汁をかきまぜながらうれしさを噛みしめていた。  しばらくすると彼がバスルームから出てきた。 「(れい)、ごはん食べるでしょう?」 「もちろん。腹減って死にそうだよ」  玲はわたしより六歳上の二十六歳。  普段の玲はかなりの仕事人間で厳しい人だけど、わたしとふたりきりのときはまるで別人。甘党で、たまに無邪気になる。このギャップがたまらない。
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