35人が本棚に入れています
本棚に追加
国の内外から集まった人々で城はごった返している。
映画のような華やかさについていけるはずもない。
田舎者丸出しで多少挙動不審な私たちに近づく者はいない。
手紙とお祝いの品を渡し、形ばかりの挨拶をしてことは済んだ。
そのはずだった。
「特に産物のなかったピフォテの街をあれほどに発展させた切れ者がいつ出てきてくれるのだろうと、待ちわびておったぞムドゥ。これほどの若さでそれを成し遂げたとはな。この書状も祝いの工芸品も見事。異世界の知識と技術は凄まじいものよ。いったいどうやって身に着けたものであろうな」
王さまが余計なことを言い出した。
私には返す言葉の準備がない。
レジェスさんの顔色が青いを通り越して紫になっている、息をしているだろうか。
「見た目ほど若くはございません、国王陛下。私の力ではないのです。領民ひとりひとりができることを、できる範囲で積み重ねてきた結果でございます。本日は誠におめでとうございます。国王陛下がいつも健やかでありますように、そしてハルトラム国が末永く繫栄することをお祈り申し上げます」
四苦八苦した営業の経験も少しは役に立ったのか、思わず口をついて出た言葉はそれほど的外れにはならずに済んだようだ。
「謙虚だと噂に聞いてはいたが、ちと度が過ぎるようだな。見習わねばならぬ者は多かろう」
王さまは朗らかに笑った。
覚えていたのはそこまで。
その後偉い人たちに囲まれてもみくちゃになり、見たこともないようなごちそうもさっぱり味がしなかった。
レジェスさんが半分泣きながら私にしがみついてきた。
良かった、生きてた。
質問攻めにされ、ボロが出ないように取り繕うだけの数日が瞬く間に過ぎてゆく。
放り出されたって構わない。
もうムドゥさまに私を貸してなんてやらない。
そんな私の愚痴をレジェスさんはにこにこ笑って聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!