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スケートパークになっている店の前の広いスペースには、前回と違って、いくつかセクションを使用しながらボードで颯爽と滑る男の子たちの姿があった。
「飾りじゃなかったんだね」
「オーナーがボーダーだからね。それでもここは狭いから、練習には不向きかもね」
「そうなんだ」
スケボーにも詳しいのかと大智と談笑していると、目の前に一台のタクシーが乗り付けて、その中からスラリとした人影が降りてくる。北埜だ。
「北埜さんこんばんは。この辺結構入り組んでますけど、この場所分かりやすかったですか?」
「大丈夫。地図と住所のおかげでスムーズだったよ。ありがとう」
「いえいえ」
身長が180センチ以上ある、タイプの違う色男が、二人並んで談笑してる様は圧巻である。
しかも互いの背後に、静かに燃える炎と火花が散って見えるのは、瑠美の気のせいだろうか。
「じゃあ店に入りましょうか」
「へえ。ここがお店とはね」
大智に続いて北埜がその場から移動する。瑠美は二人の後ろから、そっとついて行く形で移動する。
「彼氏同伴で俺を呼び出すなんて、松ちゃんも随分と偉くなったね」
「いやだから、大智くんは彼氏じゃないですし」
「しかも男に電話掛けさせるなんてね」
「それは……」
「まあいいけどね」
大智が戻ってきて、こっちですと手を振る様子を見ると、北埜は話を切り上げてそちらに向かって歩き出す。
前に利用したのとは別のキャンピングカーに乗り込むと、6人掛けほどの広々としたテーブルがあって、ソファーがコの字型で3人でバラけて座るには丁度いい。
壁際に掛かった扇風機が回って緩やかな風を送り、特別に取り付けられたエアコンが効いていて、中はとても過ごしやすく心地良い。
瑠美が窓に面した中央のシートに座り、それを挟み込むように両サイドに北埜と大智が座った。
(逃げ場がない……)
飲み物は前回同様、キャンピングカー内の冷蔵庫にこれでもかといろんな種類が入っているので、その中から好きなものを選ぶ。
「じゃあ、とりあえず乾杯しましょうか」
「そうだね」
「……じゃあ、乾杯」
ボトルを鳴らすと、それぞれがドリンクを口に運ぶ。
瑠美が手持ち無沙汰でドリンクをちびちび飲んでいる間も、大智と北埜は意外にも楽しそうにタブレットを覗き込んで、どれがおすすめだとか談笑しながらメニューを決めている。
北埜はどんなつもりでここに居るのだろうか。瑠美はそればかりが気になって、ついつい目で様子を追ってしまう。
「好き嫌いなかったよな。それとも何か食べたいのあった?」
不意に北埜が瑠美を見つめて、サラダ多めに頼んどく?と首を傾げる。
「え、いえ。なんでも大丈夫です。でも今日はあんまり食べてないんでお腹減ってます」
「ああ、お二人は飲み会だったんですよね」
「うん。でも俺もあんまり食べてないんで、大智くんのオススメがあれば任せようかな」
「じゃあこの辺り頼んじゃいますね」
タブレットをフックに戻すと、奇妙な沈黙が訪れる。当たり前だが3人は微妙な関係だ。
「先に言っときますけど、俺は北埜さんと喧嘩したい訳じゃないんで。それは分かってくださいね」
まず口火を切ったのは大智だった。それに北埜が淡々と応える。
「あら、そうなの」
「そうです。ただ、瑠美ちゃんのことに関しては、要らぬ口も挟むつもりでは居ます」
「その口ぶり、お姫様の騎士みたいだ」
「そんないいものじゃないですよ」
牽制し合うような男性二人のやり取りを黙って見つめて、瑠美はモヒートを飲んでその場は静かにやり過ごす。
「ここはタバコOKなのかな。あ、大智くんはダンサーだから副流煙もダメ?」
「いえ大丈夫ですよ。灰皿どうぞ」
言いながら大智はさりげなく窓を開けて換気をする。
「ありがと」
見慣れたグリーンのパッケージ。いつだったか気に入ったから交換してくれと、瑠美が使っていたZIPPO型のターボライターを、北埜は今でも使っているらしかった。
(まだ持ってたんだ……)
燻る煙が立ち昇る手元をボーッと眺めていると、吸わないのかと北埜が瑠美にタバコを差し出した。
「瑠美ちゃんも気を遣わなくていいよ」
「分かった。ありがと」
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