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 1月中に退院の日を迎え、瑠美の傷の具合はすっかり良くなり、大きな負荷はまだ掛けられないが、日常生活には支障がないところまで回復した。  住み慣れない新居に帰宅すると、瑠美は早速ゆっくりと一人で風呂に入って体を癒す。  風呂から上がると、久々に乗った体重計が指す数字が低くて驚いた。 「瑛児、大変だよ」 「どうかしたの」 「筋力落ちたのかな。体重が減っちゃった」 「減ったら嬉しいものじゃないの」 「不健康にやつれるのは別だよ」  ソファーに座る瑛児の膝の上に乗ると、ほらね?と体重が減ってしまったことにゲンナリした様子を見せる。 「ところで瑠美、お風呂は一人で不自由じゃなかった?」 「全然大丈夫。さて。リハビリの先生に教えてもらった筋トレとストレッチしないと」  瑛児の膝から降りると、クローゼットから取り出したヨガマットをリビングに敷いて、病院で教わった通りにストレッチを始める。  ソファーに座ってノートパソコンのキーボードを叩く瑛児は、どうやら仕事を持ち帰って家でやっているらしい。 「私が退院したからって、付き添って家に居なくても大丈夫だよ?」 「ん?ああ、これ。データのチェックだけだからすぐ終わるよ」  入院してる間も、今この瞬間も、大切なはずなのに話題に上らない話がある。  瑠美が年末から1ヶ月半近く入院することになったので、色んな状況が目まぐるしく変わったのだと思う。  左手の薬指に光る指輪を見つめて、瑠美がぼそりと呟くように瑛児を見つめる。 「結婚式、どうなるの?」  もう退院したし、体だって日常生活ならなんの問題もない状態になった。回復した。 「挙げたい?」 「うん」 「じゃあド派手に挙げますか」 「いいの?」 「本当はキャンセルした。勝手にごめん」 「……え」  瑛児がごめんねと眉を寄せる。これは事実なのだろう。じゃあ仕切り直して延期して結婚式を挙げると云う意味なのだろうか。  そうなるのは仕方ない。予想だにしないアクシデントが起こってしまったのだから。 「でも北条さんがね、言ってくれたんだ」 「ん?」 「瑠美の考えを聞いてからでいいですよって」 「じゃあ」 「そうだよ。それで本当に無駄になったら、向こうにも損失が出るのに、会場も押さえたまま、他のことも予定通り出来るように万全で待ってくれてる」 「招待客にはなんて?」 「一度は無期延期で連絡してしまったけど、元々数も少ないし、退院を待って再確認の連絡をさせて欲しいって頼んであるよ」 「それじゃあ、予定通り結婚式を挙げられるんだね」 「元気だってお披露目しないとね」 「……良かった。おばあちゃんとおじいちゃん、喜ぶと思う」 「そうだね。みんなに元気なところ見せよう」  本当はワガママを言っている自覚がある。瑠美たちがこんな時に結婚式を挙げるなんて非常識なのかも知れない。  事実4日も意識不明の時間を過ごして、それから1ヶ月半近く入院していたのだから。  そこでようやく瑠美は泣いた。涙が滂沱として流れ落ちる。  そんな様子に瑛児が黙って寄り添って、頭や背中を優しく撫でて宥め、慰める。  あの時、突然現れた優希の姿に瑛児が殺されると思ったら、居ても立っても居られなかった。  咄嗟に飛び出して庇ったのは、誉められたものではなく浅はかな行為だったかも知れない。けれどそこに後悔はない。瑛児を守ることが出来たのだから。  大切な人を守りたい。ただそれを行動に移した。あまりにもハイリスクな結果になったが、今こうして瑛児と居られる。それは変え難い事実なのだから。
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