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 テンポが早いダンスミュージックの重低音がフロアの空気を震わせ、耳をつん裂くほどの爆音が流れる中、ストロボライトが残像を切り取るように、悠然と妖艶な腰つきを見せつける男たちを煌々と照らす。 「ケビン!」 「アレン」 「グレッグぅ」  熱に浮かされて、客席から男たちの名を呼ぶ黄色い声援が飛び交い、激しいダンスミュージックと共にスポットライトが瞬く。  消防士に警官にパイロット。様々なコスチュームに身を包む男たちの服が、音楽に合わせて、一枚、また一枚と脱ぎ捨てられていき、鍛え抜かれた肉体美が露わになっていく。  見えそうで見えない、ギリギリまで露出された男性の姿に身悶えすると、寄せられた腰元に店内でチップ代わりに使う紙切れを捩じ込む。 「きゃー!ジルぅう」  堪え切れずに名前を呼ぶと、エロティックな舌舐めずりと妖艶な流し目にハートを射抜かれる。 (ああ、ヤバい。ガチで天国はここに在った)  都内某所の歓楽街。  ここは国内で唯一、男性ストリップショーが楽しめるショー&ダイニングバー、バイオレットフラクション。男性の入店が制限されている訳ではないが、店内は連日ほぼ女性客で埋め尽くされている。  そんな女性客の一人、大手ゲームメーカーのオシリスエンタテインメントに勤める松下瑠美(まつしたるみ)は、人よりもちょっぴり好奇心が強めの28歳、隠れ肉食系女子である。  瑠美が初めてこの店を訪れたのは半年ほど前。結婚を控えた友人のバチェロレッテパーティ——独身最後の大はしゃぎに付き合った時だった。  最初はストリップショーと聞いて顎が外れるかと思ったが、当然のことながらここは日本だ。過激でエロティックな演出があるだけで、決して淫らなポロリがある訳ではない。  そのステージ演出はエンタテインメント性が高く、鍛え抜かれた体のダンサーたちが魅せるパフォーマンスは、恥じらいつつも心の奥底に灯る女性の欲求を満たしてくれる、唯一無二のステージショー。  瑠美はその世界にすっかり魅了されてしまい、仕事の疲れを癒すためにこの店に足繁く通うようになっていた。 (来た!!)  3ステージ行われるショーの内、2回目があと少しで終わりに差し掛かるこのタイミング。この曲が流れ始めると、瑠美のテンションは否が応でも上がっていく。  バイオレットフラクションのトップダンサーがステージに登場するサイン。瑠美がここに通う理由でもある、サイファの登場を知らせる楽曲。  社会現象を巻き起こしたミュージカルのテーマ曲が流れると、素肌にタイトなスーツを身に纏ったサイファがステージに現れ、背もたれを前にした椅子に大きく開脚して座り、センタークリースハットでその小顔を覆う。 「キャー!サイファ!!」 「サイファ様ぁ」  フロア中から彼を呼ぶ悲鳴のような黄色い声援が飛ぶ中、彼は立ち上がってくるりと椅子を回転させると、ハットを投げ捨てる。  そのまま背もたれを跨いで片脚を椅子に乗せ、音楽に合わせて背をしならせながら、爪先から愛撫のようにその長い脚をしなやかな手付きで撫で上げる。 (けしからん。もっとやれ!)  瑠美も例に漏れず、興奮した様子でサイファのパフォーマンスを見つめ、チップ代わりの紙切れを握りしめる。  ステージ上ではサイファが他のダンサーといわくありげに絡み、キスの寸前まで顔を寄せると、客席から悲鳴に似たどよめきが起こる。  音楽の盛り上がりに合わせて、妖艶なダンスパフォーマンスがヒートアップすると、ジャケットを脱いで上半身裸になったサイファは椅子を巧みに使って客を煽る。  更にズボンが取り除かれてショートパンツ姿になると、その逞しくも艶かしい脚が露わになり、ステージに向かってチップ代わりの紙切れが舞う。  他のダンサーの手によって、ダンスの合間にジッパーが降ろされると、はだけたショートパンツからワンショルダーの攻めた下着が見え隠れして、観客の視線を釘付けにさせる。  サイファは音楽に合わせて、腰に引っ掛かるショートパンツをジリジリとずらしていく。この魅せる絶妙なテクニックに、悶々とする欲望が刺激される。  見えも触れもしない、そこに在る雄々しい物を想像して、乙女たちは興奮し、熱狂するのだ。  ファンサービスで挑発的に腰を揺らすサイファのショートパンツには、チップ代わりの紙切れが既に大量に捩じ込まれている。  この非日常で倒錯的な空気は、瑠美の渇いた心を潤し、満たしてくれる。  ただちょっと残念なのは、見るばかり一方的で、決して手の届かないキラキラした存在だということ。  分かっている。これはあくまでもエンターテイメントで、一線を超えるサービスはない。もちろん無い。  だが瑠美は、こんなエロティックな男性とベッドを共にしたらどうなるのかと、不埒なことを考えて、眩しいステージを見つめるのだった。
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