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テーブルにこれでもかと料理が並ぶと、そのインパクトにやはり3人が3人とも笑ってしまう。
「こんなに食べられるかな」
「それが意外と行けるんですよ。ね、瑠美ちゃん」
「うん。結構イケますよ。取り分けますか?」
そうして舌鼓を打ちながら世間話をして20分ほど談笑すると、思い出したように大智が話を切り出した。
「北埜さん、瑠美ちゃんにキレられたらしいですね」
「ちょっと大智くん!?」
「そう。電話で一方的に罵られたのね。あんなの俺泣いちゃうよね」
「で、実際のところどうなんですか。北埜さんが大事にしないなら、俺は本当に瑠美ちゃん貰いますよ?」
泣き真似する北埜に笑顔を向けたまま、大智は核心に迫る言葉を投げ掛ける。
「貰う?」
急に北埜の顔から笑みが消える。それは瑠美もあまり見ることのない真剣な顔だ。
「福岡で会った時も思いましたけど、北埜さんはモテますよね。実際あの時も女の子連れてましたし」
「あー。英梨ちゃんのこと?」
こともな気に名前を出すので、瑠美も大智も少し唖然とする。
「否定もしないんですね。だけどあの日だって、瑠美ちゃんとご飯に行く予定があったはず。……俺が向こうに行ったから流れたみたいですけど」
「そうね。お邪魔虫だよね、大智くん」
「茶化さないで答えてくださいよ」
「残念ながら、あの子は母方の叔母の娘。従姉妹だよ」
「「従姉妹?」」
大智と瑠美の声が重なる。
「そう。松ちゃんに断られて可哀想な俺は、一人で寂しく晩飯食べて部屋にこもってたの。そしたら英梨ちゃんから、福岡に来てるなら会いたいって連絡が来たから、少し飲もうかって会っただけ」
「だったらあの時も従姉妹だよって、紹介してくれたらよかったじゃないですか」
「どうして?姫の騎士が、わざわざ俺から姫を守るために東京から飛んできたのを目の当たりにさせられたのに?」
「それは……」
大智が黙り込むと、別に責めてる訳じゃないんだからと北埜が柔らかい笑みを浮かべる。
「英梨ちゃんの勉強したい学部で有名なのが福岡の大学らしくてね。大学院生なんだけど、あの子まだ子供だよ?俺そこまで節操なしに見えてるの?」
可笑しそうに肩を揺らして北埜が笑う。
「英梨さんの件はわかりました。じゃあ単刀直入に聞きますけど、北埜さんは瑠美ちゃんをどうしたいんですか」
大智が豪速球を投げた。
「どうしたいもなにも……」
「北埜さん、もしかして今までそうやって瑠美ちゃんにも、はぐらかしてきたんじゃないですか」
「逆に聞くけど、大智くんは松ちゃんをどうしたいの」
北埜はチラッと瑠美を見てから、大智に向かって眉を寄せる。
質問に答えずに質問するところが、北埜らしくて複雑な思いだが、瑠美は黙って二人のやり取りを見守ることにする。
「俺は大事にしたいし、出来るなら一生そばで過ごしたいですよ」
「ふうん。そうなんだ。松ちゃんは?どうしたいの」
突然話を振られて瑠美は咳き込む。
慌てて口元をハンカチで拭うと、北埜の目を見つめて先に答えて欲しいと話を切り出す。
「電話でも言いましたけど、私はこの6年ずっと北埜さんが好きです。だけど、あの時から恋人だとか婚約者が居るとか、常に女性の噂があって、捨てられるのが怖くて逃げたんです」
「……へえ」
「へえって、そんな他人事みたいなのダメですよ、北埜さん」
大智すら困惑して瑠美と北埜の間に入って、そんな答え方はないんじゃないかと顔を顰める。
「悪い。ちょっと俺が把握してたのと違ったから。松ちゃんはさ、誰か庇ってそんなことを言ってる訳じゃないんだよね?」
「庇う?いいえ、そんなことはしてませんよ」
「……そうなんだ」
北埜は難しい顔をして黙り込む。
その様子を見つめて大智と瑠美は顔を見合わせる。これはよく話を聞いてみないといけない何かがありそうだ。
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