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 早速結婚式の手配に追われてバタバタと時が過ぎていく。  ホームウエディングを得意とする、瑛児の先輩の奥様で、全国にファミリーレストランのディップスを展開するDダイニングの重役である、北条(ほうじょう)サチと云う女性に全てを委ねる形で結婚式の準備は進んでいる。 「こちらの洋館はどうでしたか?お庭が広いから、お天気が良ければガーデンウェディングにも対応出来ますし、室内であればダンスホールがありますから、ご希望の人数でも着席で対応可能ですよ」  ハンサムウーマンといえば良いのだろうか。年齢不詳の美女は、前下がりに切り揃えたボブカットがさらりと風に揺れ、すらりとした体型に見合ったパンツスーツを着こなしている。 「凄くいいですね」  瑛児がにこやかに対応している。これは外面の顔だが、本心から笑っている。 「奥様はいかがですか?会場の一部にボールプールや、簡易式ではありますが遊具の設置も可能です」 「至れり尽くせりですね。でもちょっとイメージが湧かなくて」 「そうですよね」  北条は笑って、本物を見ないとイメージは湧きませんよねと、画像になりますがとタブレットを差し出す。 「こんな感じで、お子様のご列席が多い場合は、遊具はもちろん、コットンキャンディの手作り体験が出来るサービスなんかもご用意が有りますよ」 「わあ!これ凄いですね」  綿あめを手作りしてはしゃぐ子供たちの様子がタブレットに写し出され、瑠美はつい自分も作りたくなってテンションが上がる。 「ボールプールなどの遊具はもちろんですが、お子様のご招待客様用にテディベアをお配りして、バルーンラッピングなんかも実施できますよ」  北条が提案する通り、タブレットには風船の中に入った可愛らしいテディベアの画像が表示されている。 「妻が凄く興味を引かれてるようなんですが。こんな素敵な場所なので、希望の日程でこちらって利用できそうなんですかね」  瑛児は希望は2月の前半だと念を押している。 「通常、ジューンブライドなどが有名ですが、6月はもちろん、ご来賓にとってもお過ごしになりやすい時期は人気があります。ご質問の通り、その時期であれば会場を押さえづらいのは現実です」  北条がタブレットを操作しながらそう説明すると、今度はグラフが表示されたページを開いて瑠美と瑛児に対して、丁寧な説明を続ける。 「ご希望の2月はいわゆる人気の低い時期です。バレンタインはそれなりに需要があったりしますが、気温の変化が読みづらいですし、華やかなイメージが強い他の月に比べて、ご融通を通しやすい時期でもあります」  まさに立て板に水の如く流れるような解説に、瑛児と瑠美は感嘆の溜め息が漏れる。 「瑛児、私ここで北条さんにお任せして式がしたい」 「瑠美がしたいなら良いよ。俺も賛成」  二人で顔を見合わせて意見が合致すると、バレンタインが近い2月15日の土曜日で会場を押さえることにした。  式で使用するウェディングドレスに関しては、提携している会社がいくつかあると云うので、とりあえずカタログだけを貰って、次回に話を詰めることになった。 「北条さん、本当にありがとうございます。康孝さんに宜しくお伝えください」 「ええもちろん。近々連絡するそうなので、飲み相手になってあげくださいね」  瑛児と北条が内々の会話を交わしている。 「ご縁を利用して無理を言いましたが、本当に今回は宜しくお願いします」 「はい。こちらとしても今後に繋がるお式になりそうですので、出来る限り勉強させていただきます」  二人の挨拶が終わったようなので、瑠美は改めて北条と握手する。 「いただいたカタログから、次回までにドレス選んでおきますね」 「はい。奥様のご希望に沿う形で善処させていただきますので、ジュエリーと合わせて細かいご希望も、どうぞご遠慮なくお申し出ください」  洋館を出ると、帰りも車で送ってくれると北条から申し出があったが、周りを散策したいのでと丁重に断ってその場で解散となった。 「やっと式場が決まったね」 「日にちも決まったし、早速招待状の手配を考えないと」 「なんだかんだ、瑛児がやる気で安心してる」 「一生に一度のことだからね」 「そうだね。良い日にしようね」 「なるよ。特別な日に」  行こうかと伸ばされた手を握ると、銀杏並木の遊歩道を歩いて、近くの駅から電車に乗って帰路に着いた。
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