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 今日の通院は車で移動する。  冬休みに入ったらしい、大学院生の上の弟が病院に付き添ってくれる。 「姉ちゃん、早くシートベルト締めなよ」 「姉ちゃんは翔太が運転する車とか怖くて仕方ないよ」 「まあ事故ったら事故った時でしょ」 「まだ傷を負えと!?」 「冗談だよ。じゃあ出すよ」  本当に安全運転で病院までの道のりを過ごすと、小一時間待たされたことを除けば、診察も問題なく終わり、CTやMRIでの検査結果も良好だった。 「お義兄さん帰りはどうせ夜だろ?このまま実家行く?」 「そうだね。お母さんに甘えておかず分けてもらおうかな」 「じゃあとりあえず家帰ろうか」 「よろしく」  本来なら自宅からそう遠くない病院だし、怪我の後遺症もないので一人で通院できる。  けれどどうも人気のない路地に立つと、フラッシュバックなのか、動悸が酷くなり、眩暈や立ちくらみを起こしてしまうのだ。  優希の様子は明らかに異様で普通ではなかったが、道端で人影がチラつくと、やはり同じように調子を崩してしまう。  なので今日のように誰かが必ず通院に付き添ってくれることになっている。 「たぶん昼ごはんは、焼きそばかお好み焼きだと思うよ」 「お母さんの焼きそば好きだよ。野菜がたっぷりでシャキシャキしてる」  弟とたわいない話をしながら、瑠美は頭の中で別のことを考えていた。  それは仕事の復帰に関してだ。  今のところ人事部の担当とも話をして、医師の判断もあり休職扱いである。  けれど道に立つだけで震えたり、発作のように動悸が激しくなる精神面の不調が、いつになれば治るかは分からない。もしかすると別の医者にかかる必要もあるかも知れない。  結婚式だなんだと楽しいことを考えて、瑠美自身そのことから目を逸らしてしまう節がある。  けれど今後生活していく上で、早めに手を打たなければいけないことなのは、誰の目から見ても明らかだ。 「……姉ちゃん、頑張りすぎんなよ」  なにかを感じたらしい翔太が、目線も合わせずにボソリと呟いた。 「ありがと」  実家に着くと翔太が言ったとおり、お昼ご飯は野菜たっぷりの焼きそばだった。  夕飯は甘えておかずを持ち帰りたいと言うと、翔太の運転で買い出しに行き、日持ちのするおかずをいくつも作ってタッパーに詰めて母が持たせてくれた。  再び翔太の運転する車で自宅に帰宅すると、時間は19時を過ぎていた。そろそろ瑛児から連絡があるだろうか。 「ふう。ただいま帰りました。と」  持ち帰った大量のタッパーを冷蔵庫にしまい入れると、冷凍できそうなおかずはジッパー付きの袋に詰め直して冷凍庫にしまう。  米を洗って炊飯器にセットすると、バスルームに移動して風呂掃除を済ませ、パネルを操作してバスタブに湯を張ると、一通り落ち着いたところで、リビングでストレッチをするためにヨガマットを広げた。 「あ。舞子から連絡来てたんだった」  カバンに入れっぱなしだったスマホを取り出すと、瑛児からのメッセージが届いている。どうやら今日は残業のようで少し帰りが遅くなるらしい。  瑛児に了解と返信して、舞子からのメッセージを確認する。  瑠美の体調を気遣い、結婚式は本当に大丈夫なのかという内容だ。  やはりこの時期に結婚式を挙げるのは、非常識な行動なのかどうなのか迷ってしまう。  経過は順調だし回復もしてる。けれど傷害事件の被害者として、大人しく過ごしていた方がいいのだろうか。 (ダメだな。被害妄想みたいになってる)  責められているわけじゃない。心配してくれているだけ。  刺された経緯が経緯なだけに、もしかして瑛児は会社で嫌な批判に晒されていないだろうか。  その事が気になって、それとなく舞子に聞いてみるが、そもそもあの事件自体がストーカーの犯行ではなく、サイコキラーの凶行として扱われているらしい。  災難だったねと労いの言葉を掛けられて、内情が表沙汰になっていない事を知ると、瑠美は心の底からホッとした。  優希のことは、大智を除けば本当に身内しか知らないことだ。  瑛児が不誠実な対応をした訳ではないとは云え、面白おかしく騒ぎ立てられるのは本意ではない。  瑠美は話を切り替えて舞子とのメッセージを早めに切り上げると、こうなってからの日常がいかに難しい事なのかを考えながら、夕飯の支度に取り掛かることにした。
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