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結婚式当日は小雨の降る寒い日となった。
悩みに悩んだウェディングドレスは柔らかいジョーゼット素材のマーメイドラインが印象的なドレス。
特に瑠美が気に入ったのは、その背中のデザイン。
バックスタイルが大きく開けたバックレスに繊細なリバーレースがあしらわれ、怪我をした事が嘘のように、その部分が綺麗にドレス内に収まるからだ。
「凄く綺麗だよ」
髪の毛を高めのルーズなシニヨンスタイルで纏め、メイクを全て終えた瑠美の前に現れたのは、ヘザーベージュのクラシカルなフロックコート姿の瑛児だ。
襟元は光沢のあるキャラメルブラウン、モカブラウンのアスコットタイに、インナーのワントーン抑えたダークブラウンのベストは、背が高くスタイルの良い瑛児が着ると様になっている。
その上今日は髪を後ろに流し、少しだけメイクもしているのだろうか。酷く妖艶で、見慣れた顔のはずなのに目を引かれる。
「やっぱりカッコいいですね」
「なんで敬語」
「分かんない」
二人で笑い合うと、担当のスタッフに案内されて会場のドアの前に立つ。
本来であれば二人を案内するはずの北条がここに居ないのは、今日の式のために尽力してくれた彼女を、瑠美と瑛児が来賓として招待したからだ。もちろん彼女の家族も。それを北条は快く受けてくれた。
「あー緊張する」
「大丈夫。ずっと俺がそばにいるでしょ」
瑠美の手に握られたブーケは、瑛児の姉の未散の義妹で、世界的に活躍する華道家の望月更紗が特別に仕立ててくれたものだ。
緊張で冷たくなった手を、瑛児の手がそっと包んで温める。
「大丈夫。最高に綺麗だから」
「なにそれ。でもパワー出た」
礼拝堂で人前式を行い、それが終わるとゲストが先に披露宴の会場となるホールに移動して、準備が整ったところで瑛児と瑠美が入場する。
家族がメインの小規模な披露宴とはいえ、気心の知れた友人と久々の再会を果たし、思い出深い時間を過ごすことになる。
新郎新婦の友人代表として、昨夜——今朝まで一緒に過ごした大智がサプライズでスピーチをしてくれたのだが、うっかり昨日のうちに色々話してしまったらしく、練習の成果が出せないと冗談混じりに話し、場を沸かせていた。
新郎の瑛児へのキラキラした視線ももちろんあったが、未婚の乙女たちがギラギラした目で大智を見ていたのも印象的だ。
それが証拠に、祝いの挨拶をしに新郎新婦のテーブルに来る友人たちは、惚けた顔で瑛児を拝みつつも、口を揃えて大智を紹介して欲しいと興奮した様子を見せた。
そして北条が提案してくれた子供たちに向けた演出は大好評で、北条夫妻の子供たちがメインになって小さな子たちをフォローしてくれて、長丁場の披露宴でもぐずる様子を見せる子供は出なかった。
「北条さん。来てくださってありがとうございます。それに、この度は本当にご尽力いただいて感謝してもしきれません」
「いいえ。ご快復、心よりお喜び申し上げます。そしてこんな素敵なお式に、私だけでなく家族まで呼んでくださってありがとうございます」
瑛児の知り合いだと云う北条の旦那様とも挨拶ができて、瑠美も瑛児も感謝の言葉を直接伝える事ができてホッとする。
ゲストの子供たちへ、バルーンラッピングしたテディベアを配ると、愛らしい笑顔の花がそここで咲き、ブーケトスの代わりに、更紗が用意してくれたプチブーケを参加した女性客に配ることにした。
こうして終始和やかであたたかい雰囲気の結婚式は、滞りなくその幕を閉じた。
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