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「僕の名を呼べ! エバ!」
あなたが手を差し伸べます。落ちゆく私へ、真っすぐに。
やわらかな絨毯を蹴って空へと跳躍したふたりの身体は、はばたくこともできずに落ちてゆきます。
あなたの背中であんなに輝いていた純白の翼は、はらはらと抜け落ちてどんどん小さくなっていきます。痛みに顔を歪めながらも、あなたは私を抱き寄せようとしました。
翼が太陽に灼かれて、付け根から焦げる音がします。
「ほら、早く僕の名を」
私はただ、背中に走る激痛と熱に耐えていました。
彼の名を声に出そうとしても、のぼせたのか、ぼうっとしてしまいます。
果てしない空の高みから、天使たちが追ってきます。
私たちをあの楽園に永遠に閉じ込めようとする、神の遣いが。
あなたの名を呼べば、私たちは翼を取り戻す。
天使でも罪人でもない誰かになって、どこへでも飛んでゆけるというのに。
私はなぜか、あなたの名前を呼べませんでした。
浮かんでくるのはただひとつの名前。けれど、その名を口にしてしまうことは、ひどくおぞましかった。
「エバ!」
真っすぐに名前を呼んでくれるあなたが、天使に追いつかれました。
腕を掴まれて、私から離れていきます。
私は背中から落ちていきながら、きっとこのまま天の底に叩きつけられてしまうんだ、と目を瞑りました。
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