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体は世龍のもの。力は、姉の操る魔鏡のもの――。
姉は、この世に現れる事がままならない。魔鏡の力を持ってしても、肉体を作る力が働かなかった。
一方、世龍は、術は使えるが、獲物を狩るまでの力が備わっていなかった。
世龍は体を姉に譲り渡し、姉は、その体と、鏡の力を使って事を成した。
男の世龍が獲物に近寄るよりも、姉の姿の、世龍、が近寄る方が、事の運びもうまく行った。
こうして、姉弟は、主の意に添っている。
もし――。
疲れたなどと弱音を吐いてしまったら。
主は、情け容赦なく、暗い、暗い、混沌の中へ突き落とすだろう。
見捨てられた眷属は、業という枷をはめられ、命尽きることなく、新たな生へ転生することなく、苦しみの中で這いずり回る――。
苦行が控えているとわかっていれば、なおさら、おとなしく、闇に仕えてしまう。
その浅ましさが……、人に生まれえなかった理由だろうか。
しかし。
(闇神様が……。)
(ああ。まさか、今度は、うちの邑に!)
あのように恐れていながら、人はどうして、自ら、闇へ踏み込んでしまうのか。
沙耶……。なぜ、お前は、闇に飲まれてしまった?
迷うてしまったのか──。
迷わせてしまったのか──。
それとも、お前も……、縛られていたのか。
従うということに。
(あたしはちゃんと我慢していた!家族のために我慢していた!)
なぜか、世龍の脳裏に、沙耶の最後の叫びがこだました。
「世龍?」
「姉様、わかっております」
道を迷えば、課せられた役目は果たせない。闇に染まり、闇に従う、己の役目──。
世龍は、手鏡を懐にしまうと、人目を避けるように、納屋を出た。
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