五章 末

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体は世龍のもの。力は、姉の操る魔鏡のもの――。 姉は、この世に現れる事がままならない。魔鏡の力を持ってしても、肉体を作る力が働かなかった。 一方、世龍は、術は使えるが、獲物を狩るまでの力が備わっていなかった。 世龍は体を姉に譲り渡し、姉は、その体と、鏡の力を使って事を成した。 男の世龍が獲物に近寄るよりも、(おんな)の姿の、世龍、が近寄る方が、事の運びもうまく行った。 こうして、姉弟(きょうだい)は、主の意に添っている。 もし――。 疲れたなどと弱音を吐いてしまったら。 主は、情け容赦なく、暗い、暗い、混沌の中へ突き落とすだろう。 見捨てられた眷属は、(ごう)という(かせ)をはめられ、命尽きることなく、新たな生へ転生することなく、苦しみの中で這いずり回る――。 苦行が控えているとわかっていれば、なおさら、おとなしく、闇に仕えてしまう。 その浅ましさが……、人に生まれえなかった理由だろうか。 しかし。 (闇神様が……。) (ああ。まさか、今度は、うちの邑に!) あのように恐れていながら、人はどうして、自ら、闇へ踏み込んでしまうのか。 沙耶……。なぜ、お前は、闇に飲まれてしまった? 迷うてしまったのか──。 迷わせてしまったのか──。 それとも、お前も……、縛られていたのか。 従うということに。 (あたしはちゃんと我慢していた!家族のために我慢していた!) なぜか、世龍の脳裏に、沙耶の最後の叫びがこだました。 「世龍?」 「姉様、わかっております」 道を迷えば、課せられた役目は果たせない。闇に染まり、闇に従う、己の役目──。 世龍は、手鏡を懐にしまうと、人目を避けるように、納屋を出た。
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