三章 手鏡の行方

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骨が砕けてしまいそうなほどの力が加わり、春香は、立っているのもおぼつかない。 「私が、何も知らないと?ん?」 形相(ぎょうそう)を向けられて、春香はすべてを白状しようと観念した。 が。 「……もう、遅い」 世龍の低い声が流れた瞬間、霧のようなものが沸き上がってきた。 霧は、するすると春香の体にまとわりついた。 否、手。 幾千もの青白い死人(しびと)の手が、春香の体を掴んでいる。 そして――。 ずるずると、何が()うような気配と共に……。 「ぎゃああ!!」 刹那、春香が発した断末魔が納屋に響く。 すべて──、   消えた。 「本当に、娘というものは、うっとうしい。我らをだませるわけがないだろう。報いだよ……」 女が、そう、あの夜空を駆けた女が、どこからともなく現れていた。 「あ、あ……」 起こった事に、沙耶は腰を抜かしている。 「見え透いたことをしてくれて」 女が(うめ)く。恐れおののき、地面に転がる沙耶には目もくれずに。 どうして! 世龍が居たはずなのに。そして、春香が……いた。 でも……。 納屋には、女と沙耶以外、誰もいない。 と、再びあの霧のようなものが……。 飲み込まれる?! これ以上、ここにいてはいけないと沙耶にもわかっていた。 でも、体が固まって動かない。 このまま身をすくめ、その時を待つしかないのか。 ところが、沙耶に襲いかかるはずの霧は晴れ、前には、女に代わって、世龍がいた。 持つ手鏡は、漂っていた霧を吸い込み、きらきら輝いている。
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