四章 終焉

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四章 終焉

女が、霧ごと鏡に吸い込まれた。 沙耶にはそう見えた。 ……ミャオ……。 どこからか、猫の鳴き声が流れてくる。 アギが、納屋の入口に座っていた。 いつの間にやって来たのか、食い入るように沙耶を見ている。 「アギ!」 沙耶はとっさに猫にすがった。 誰でもいい、助けを求めたかった。なんでもいい、生きているものに、すがりたかった。 「春香などいなくなればいいと思っただろう?だから、かなえてあげたんだよ」 見知らぬ男の声がする。 世龍しかいない。でも、主の声と異なっている。 アギが発した?まさか。 不審に思うまもなく猫は、ふわりと浮き上がる。体躯(からだ)が溶け崩れ、黒い溶液となって地面に垂れ落ち始めた。 そして、溜まり水となった。 溶液は、地面を滑るようにむくむく動く。 と、盛り上がり、氷のように冷ややかな眼差しをもつ男が現れた。 「猫になっていても仕方ない」 男が言う。 「御前様!」 「ああ、世龍よ、そう声を荒げなさんな。沙耶が怖がっているだろう?」 男は、世龍を邪険に扱い、沙耶に親しげに近寄ってくる。 何が起こっているのだろう。 繰り広げられている事は、おぞましい以外の言い表せない。 人が消え、人が沸き出て、挙句、猫が人になった。 「さあ、もう終わりにしよう。お前は、よく頑張った」 「終わり……?」 怪しく現れた男は、沙耶にいたわりの言葉をかけ、愛しそうに手を差し伸べてきた。
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