四章 終焉

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握るべきか――。 いや!この男は、アギだった。 この男は、人間ではない。 これは、これは……。 でも。 アギは、アギは、いつも側にいてくれた──。 「よく辛抱したね。悔しかったろう?」 慰めの言葉に、沙耶の瞳から堰を切ったように涙が流れ出す。 男は、沙耶を引き起こすと、包み込むように抱きしめた。そして、柔らかな指で沙耶の流れ出した涙を拾った。 「あたし!どうして!あたしだけ!」 わっと声をあげ、沙耶は男の懐にしがみついた。 「おいで。その恨みをもって私の所へ」 ……やっと、守ってもらえる。 「ああ、これだ、これだよ。人間の憎悪はなんて美しいのだろうね。お前に試練を与えて本当に良かった。恨みが、どんどんふくれあがった。本当に良く頑張ったねぇ」 試練? 男の懐に甘えていた沙耶は、居心地の悪い陰湿な気配を捉らえた。 「でもね、恨みには、報いというものが付きものなんだ」 耳にした言葉の響きに、沙耶は目を見開く。 「御前様!」 世龍が叫ぶ。 見えているのは、男の黒衣。それは、安らかな未来ではなく、おそらく……。底無しの──、深い闇――。 足元に、あの霧が沸き出てきた。 それこそが、誘い、いや、報い……。 死人(しびと)が、寂しげに手をこまねいている。 幾千の青白い手が、此方へ来いと沙耶を呼んでいる。
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