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握るべきか――。
いや!この男は、アギだった。
この男は、人間ではない。
これは、これは……。
でも。
アギは、アギは、いつも側にいてくれた──。
「よく辛抱したね。悔しかったろう?」
慰めの言葉に、沙耶の瞳から堰を切ったように涙が流れ出す。
男は、沙耶を引き起こすと、包み込むように抱きしめた。そして、柔らかな指で沙耶の流れ出した涙を拾った。
「あたし!どうして!あたしだけ!」
わっと声をあげ、沙耶は男の懐にしがみついた。
「おいで。その恨みをもって私の所へ」
……やっと、守ってもらえる。
「ああ、これだ、これだよ。人間の憎悪はなんて美しいのだろうね。お前に試練を与えて本当に良かった。恨みが、どんどんふくれあがった。本当に良く頑張ったねぇ」
試練?
男の懐に甘えていた沙耶は、居心地の悪い陰湿な気配を捉らえた。
「でもね、恨みには、報いというものが付きものなんだ」
耳にした言葉の響きに、沙耶は目を見開く。
「御前様!」
世龍が叫ぶ。
見えているのは、男の黒衣。それは、安らかな未来ではなく、おそらく……。底無しの──、深い闇――。
足元に、あの霧が沸き出てきた。
それこそが、誘い、いや、報い……。
死人が、寂しげに手をこまねいている。
幾千の青白い手が、此方へ来いと沙耶を呼んでいる。
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