四章 終焉

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「違う!あたしは、恨みなんか、恨んでなんかない!あたしはちゃんと我慢していた!家族のために我慢していた!仕方ないって、わかっていたから!……母さんっ!!助けてっ!」 「往生際の悪い子だ。だけど、それが、また、なんとも言えない食指をそそるものだと、知っていたかい?」 ははははは、と、声高な男の笑い声と共に、悲痛な叫びが納屋に響いた。 地面には、血溜まりのようなどす黒い染みが二つあった。 ここにいたはずの娘たちは、もちろん、いない。 「欲っされていたのは……沙耶の持つ(うらみ)だったとは……」 世龍が、呟く。と、同時に、地面を染めるどす黒い染みが、するすると消えて行った。 黄泉(あちら)の国へ、お戻りになられたか……。 世龍は息をつく。 ──あの日。 世龍はとてつもない邪気に導かれ、沙耶を見つけた。 人が発するものではないほど、重苦しいものだった。 もしや、こちらに敵意を抱くものかと思ったが、見つけたものは、息も絶え絶えの娘だった。 荷馬車の下で最後の力を振り絞り、生きる執念といえるものを発していた。 その、あまりに強い思いが、邪気に感じたのだろうか。 世龍が思案している脇で、供が声をあげていた。 医者と語っている以上、怪我をしている者を見捨てるわけにいかなかった。 あれはきっと――。 仕組まれていたのだ。闇の手によって。 沙耶は、狙われていた。 彼女の持つ、恨みつらみが、御前様を――、闇を──、呼び寄せてしまった。 そして、闇は、自分好みの(うらみ)を作ろうと、抱え切れないほどの憎悪を抱くよう……、沙耶に試練を与えた。 どうして沙耶でなければならなかったのか。   果たして、偶然だったのか、あるいは、必然だったのか。 すべては、仕掛けた闇神(もの)にしかわからない……。
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