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五章 末
「世龍、私たちは、闇に仕える身なのだよ」
手鏡から、流れ出したささめきに、世龍は、はっとした。
そうだ。我が身の事を忘れてはならない。
私たちは、主のために、獲物を用意しなければならぬ。それが闇の眷属としての勤めだから。
とはいえ、近頃の主は、度が過ぎていた。人間の娘の血が欲しいと、執拗に欲した。
いくら食らっても、違うと、満たされないと、荒れ狂った。
その主の意に応えようと、懸命に娘を捧げてきたのに、まさか姿を変えて、側におられたとは。
――アギ。
ただの猫ではないと世龍は感じ、可愛がる振りをして見張っていた。
されど、眷属の身では、主の力には及ばない。
だから、側にいながら、主であると、闇の主であると見破れなかった。
改めて、自身の力のなさを見せつけられた。
なにより、狙った獲物に擦り寄り、いたぶるという……、主がそこまで節制を失っていると気がつかなかったのは、失態といえた。
危険すぎる。
これでは人に正体がわかってしまう。そうなれば、正の力とやらを使って、世龍たち負の力を封じようとするだろう。
護符、祈祷……。
そんなもの。
こちらには何の効き目も発しない。
だが、時として脅威となる正の力を持った人間が現れることがある。
いつ、どこでそのような者と出会うか、わからない。
出会わないよう注意を払うのも、眷属の勤めだった。
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