五章 末

2/3
前へ
/32ページ
次へ
だからこそ……。 噂が立ちすぎないように気を配っていた。それを、主みずからこのように動いては――。 しかし、主の意には(そむ)けない。 道を外れようとも、生かされている身の上である以上、黙ってつき従うしかないのだ。 「さあ、世龍。もうここに用はない」 鏡の中から、急かす声がする。 「はい。そうですね。騒ぎになる前に立ち去らねば……」 仕事は終わった。 ただ、それは終えても、終えても、永久に――、終らない──、もの。 「姉様。まだ、娘を用意しなければならぬのでしょうか?」 幾年こうして人の世を彷徨(さまよ)っているのだろう……。 治療と称して、世龍は術をかけた。 病は癒えたように見える。 そして、世龍の名が評判となる。 名医の元には、人が集まり、主にささげる娘を探す手間が省けた。 闇神様と恐れられている主のために、腕の良い医師を演じただけのことなのに。人間たちは……世龍を、神と崇め涙を浮かべた。 浅はかな。   それは、誰か。 己か、人か。 「お前の体がなければ困る。世龍、しっかりしておくれ」 世龍の迷いを見越したように、手鏡の中から(いさ)めの言葉が繰り出された。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加