一章 売られた日

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仕方ないで、片付けられる自分の境遇が腹立たしい。 いつか、きっと抜け出してやる。心に小さな野心を秘めて、沙耶はじっと耐え忍ぶ。 「ああ、皆が皆、お前さんみたいに聞き分けがいいと、こっちも助かるんだがよ」 ハッと声をあげ、人買いは馬を鞭打つ。 ガラガラと(てつ)の音が鳴り響き、乗る荷馬車がギシギシ(きし)む。 他の邑でも商うから馬車で来たと、商人ぶる男。 歩かなくて済むんだ、感謝しろと言われても――。 道連れができる、仲間ができる。 人買いが舌を振るうたび、沙耶は、背負った覚悟を崩されるような、違和感に襲われた。 独りで耐えたかった。 自分独りで苦しみを背負えば……、この世から、同じような境遇が……なくなるのでは……。 などと、余計な義務感が生まれていた。 日が暮れてしまうと人買いは、御者台で()いている。
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