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夜の田舎道を走るのは、ごめんこうむる。このご時世、夜叉より怖い賊が出る。
「そん時は、お前を差し出すぜ」
にやりと笑って、人買いは再び鞭を振るった。
――ゴトリ。
不自然な音の後、大きく荷馬車が傾いた。
「う、うわああっ!!」
しっかりつかまれと言う前に、男は悲鳴と共に御者台から投げ出され、荷馬車は転倒した。
布を切り裂くような馬の嘶きに続いて、沙耶は耐え兼ねる重みを感じた。
が、すぐさま焼けるような激痛に襲われ、気が遠のいていく。
「これはこれは。おやおや。」
誰?
霞――。
霞んで見えるその先には、闇。
しかし、漆黒の空から、一筋の光が差し込めて見えた。
……私……。
私……。このまま……。
「大丈夫、死にはしない。ほら、ゆっくりと目を開けてごらん」
若い男の声がした。
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