一章 売られた日

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夜の田舎道を走るのは、ごめんこうむる。このご時世、夜叉(やしゃ)より怖い賊が出る。 「そん時は、お前を差し出すぜ」 にやりと笑って、人買いは再び鞭を振るった。 ――ゴトリ。 不自然な音の後、大きく荷馬車が傾いた。 「う、うわああっ!!」 しっかりつかまれと言う前に、男は悲鳴と共に御者台から投げ出され、荷馬車は転倒した。 布を切り裂くような馬の(いなな)きに続いて、沙耶は耐え兼ねる重みを感じた。 が、すぐさま焼けるような激痛に襲われ、気が遠のいていく。 「これはこれは。おやおや。」 誰? 霞――。 霞んで見えるその先には、闇。 しかし、漆黒の(くう)から、一筋の光が差し込めて見えた。 ……私……。 私……。このまま……。 「大丈夫、死にはしない。ほら、ゆっくりと目を開けてごらん」 若い男の声がした。
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