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一通りの説明を聞き終えた彼女は、やがて顔を上げ、柔らかい声で問いかけてきた。
「俊介くんは、どうして『可愛い』人が見えないのかな?」
彼女の反応が意外だった。
今までにモザイクのことを打ち明けても、冗談と受け取られて笑われたり、変な人だと引かれたりすることしかなかったから。誰も、まともに聞いてなんてくれなかった。
「たぶん……怖い、んだ。『可愛い』女性が……」
今まで胸の奥に隠してきた気持ちを、過去を、彼女に打ち明けた。
中学生時代に恋をした相手が、可愛い容姿の人だったこと。初恋だったこと。勇気を出して告白したが、「あなたみたいなキモイ男子に好かれたくない」とあざ笑われフラれたこと。それ以来、「可愛い」女性にモザイクがかかるようになってしまったこと。
こんな現象のせいで人間関係に支障をきたしているし、当然ながら恋人もできたことがない。
大学生になって、「このままではダメだ」と頑張ってダイエットをして、贅肉をかなり落とした。髪型や服装も研究して、人並みの見た目にはなれたと思う。
それでも、自信はついてこなかった。
可愛い女性を見た瞬間に、拒絶反応を起こしてしまうのも相変わらずで。
「もう、恋なんてできないかもって思った。でも、『レンタル彼女』のサイトで君の顔を見た瞬間、『会いたい』ってなぜか思ってしまって。モザイクがすぐにかかったのに。本当、キモイよね、俺……」
彼女は、俺のことをじっと見つめているようだった。今の彼女の胸のうちを想像すると耐えられなくて、走って逃げだしてしまいたくなる。
「……『キモイ』、なんてことはないよ」
やがて聞こえた言葉に、「えっ」と顔を上げる。
次の瞬間、立ち上がった彼女は俺の手を引っ張り上げ、歩き出す。
「えっ? えっ?」
「行こっ。せっかくデートしに来たんだから、楽しもうよ」
「でも……」
「どこへ行きたい?」
「あ……。浜辺を歩きたい……かな」
「うん」
俺と彼女は手を繋いだまま、カフェを出て海岸へ向かう。初めて繋がれた女性の柔らかい手に、心臓が今にも飛び出しそうだった。
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