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「初めまして、さなさんとお付き合いさせて頂いている熊谷です」
「えっ?」
両親が驚いて顔を見合わせる。
「さな、そんな人いたの?」
「うん…お金も…悠斗さんに工面して貰ってた」
「そんなっ」
父が土下座した。
額を床に擦り付けて平謝りしている。
「熊谷さん、娘の…いや、私たち親子の為に本当に申し訳ございませんでした」
「やめてください。頭を上げてください」
「さな、熊谷さんにどうやってお金を出させてたんだ?」
「それは…」
「いいんです。僕が勝手にしたことですから」
「でもそんな方からお金を…」父が躊躇う。
「お金、頂戴していいのでしょうか…」憔悴しきった母がポツリとそう言った。
母はもう限界のようだった。
完全に悠斗に縋っている。
「母さんっ」父がたしなめる。
「お父さん。僕はさなさんと同じ会社で部長という役柄を務めていまして、でも趣味もなく独身貴族ってやつなんです。愛する人の為にお金を使えることが本望なんです」
そこで母が泣き出した。
床に座り込んで泣き崩れる。
「熊谷さん…本当にありがとうございます…」
「やめてください。その代わり…と言ってはなんですが、娘さんとの結婚を許してはもらえないでしょうか?」
「さなはそれでいいのか?」
父が問う。
「私、悠斗さんと結婚したいの」
さなの瞳から涙がこぼれた。
「じゃあ父さんが言う事はなにもないよ」
「母さんもよ。二人で幸せになって頂戴」
「でも熊谷さん、このお金は貸しということにしてください。とても頂けません」
父が強い意志でそう言った。
そこで悠斗がクックと笑った。
「熊谷さん?」
「さなさんの頑固さはお父さん譲りなんですね」
「さなは頑固ですか?」
「ええ、とっても」
悠斗がニッコリ笑った。
「もうっ、悠斗さん!」
さなが真っ赤になって俯く。
「これはお恥ずかしい」
父が右手で後頭部を掻いた。
「わかりました。その代り、ゆっくりゆっくり返してください。仕事の掛け持ちもやめてください」
悠斗の言葉に父も目元をぬぐった。
「熊谷さん、本当にありがとうございます。さなのこと、幸せにしてやってください」
「もちろんです。必ず僕が幸せにします」
さなもそっと目元をぬぐった。
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