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「部長!おめでとうございます!」
「さな!おめでとう!」
それから数か月後、二人は友人や会社の面々を呼んだ盛大な結婚式を挙げた。
二人を祝福するようによく晴れた日だった。
「さな、いつの間に部長と~?私も狙ってたのにぃ」
ぶぅと頬を膨らませて同僚の女性がさなに声をかけてくる。
「えへへ」
「部長いつの間にさなちゃんと~?俺も狙ってたんすよ~」
部下の男性が悠斗に声をかけてくる。
「お前にはやらん」
「ヒューヒュー」
周りが喝采に湧いた。
「うるさいな、さな、いくぞ」
「行くってどこへ?」
悠斗はさなの手を引いて宴会場の中庭に出た。
「お前、随分モテてるじゃないか」
「悠斗さんこそ」
「絶対に俺だけのさなだからな」
「絶対に私だけの悠斗さんですよ?」
「今夜は楽しみにしてろよ」
悠斗がニヤニヤと笑う。
「いやー!」
その叫びに悠斗が幸せそうに笑った。
「もう!何ニヤニヤしてるんですか!」
「絶対後悔させないから」
「悠斗さんは後悔するかもしれませんよ?」
「しないさ、後悔なんて」
「私も後悔しません」
「愛してる、さな」
「私も愛してます、悠斗さん」
さなの瞳から涙がこぼれた。
「何泣いてるんだよ。さっき散々泣いただろ?」
それは両親への手紙を読んでいた時の事を指している。
生い立ちの事、家族を苦しめた借金の事、悠斗の存在、全てを書き綴ったさなは音読の途中涙で十五分も式を中断した。
「愛してるって言えるから…」
「ああ、それはいつでも言ってくれ」
これからは愛していると伝えられる。
さなはその幸せを嚙み締めた。
「悠斗さん、あのね…実はまだ言ってないことがあるんです」
「言ってないこと?」
「でも悠斗さんには迷惑かも…」
「言ってみなきゃわからんだろう」
「赤ちゃんが出来ました。悠斗さんと、私の…」
「え…」
「迷惑…ですか?」
正直、堅物の悠斗が子供をあやす姿など想像がつかなかった。
するとさなの胸中をかき消すように、悠斗がさなをぎゅっと抱きしめた。
「迷惑なんてことあるはずがないだろう」
「産んでもいいですか…?」
「当り前だ。バカ。聞くまでもない」
「よかったぁ」
さなの瞳から涙が零れ落ちる。
「愛してる、さな」
「さっきも聞きました」
「何度でも言いたいんだ」
「じゃあ私も」
二人はそっと口付けを交わした。
これからはもうずっと、幸せだけが続いていくように。
-END-
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