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「田中さん、睡魔を呼んで欲しい」
何でも屋の田中は目を丸くした。こんな依頼は初めてだからだ。依頼者は髙橋と名乗った。
「睡魔、ですか?」
「もう、三日も眠れていないんです。もう、睡魔に頼むしか方法がない」
「睡魔ってあの、睡魔? 授業中や会議中に突如襲ってくる眠気のことですよね?」
「はい。全くその通りです」
髙橋は現実と空想の区別が付かなくなっているのだろうか。目の下の黒々としたクマがそれを物語っている気がした。
「他の業者にはことごとく断られてしまって、もう田中さんしかいないんです」
確かにこんな荒唐無稽な依頼は断られて当然だろう。
「良い精神科医を知ってるからと、メンタルクリニックの紹介状まで貰ってしまいました」
「通ってみたのですか?」
頭をぶんぶん振って、絶対にそれはあり得ないと言う。
「それに、父も祖父も同じように眠れなくなった事があって、二人とも田中さんに睡魔を呼んで貰ったそうなんです」
「それは、どういう」
「見て下さい。ここに、そう書いてあるでしょう?」
髙橋は二冊の大学ノートを並べて、その箇所を指さした。
「はあ」
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