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足音すら立てずにティーナの肩を抱いたカルオットは、冷たさの増した声でこう問うた。
「ここがどこだかわかっているのか?そして、この者が誰なのかわかっているのか?答えろ、カリナ卿」
「そ……それは」
「耳が聴こえないのか?さっさと答えろ」
「ここは恐れ多くも我が国の中枢である王城であり、ティーナはわたくしめの娘であります」
「半分は、正解だ。だがティーナはお前の娘である前に、私の婚約者だ」
瞬間、会場はどよめきが起こった。
無理もない。ティーナは間違いなくカルオットの婚約者だが、いつ婚約を破棄されてもおかしくないと噂されるほどの関係だった。
まかり間違っても、大勢の人の前で自分の婚約者だと公言するような人ではなかったはず。
カルオットの予想外の行動に、ティーナは目を丸くする。
ここにいる招待客に至っては、シャシェのことなどそっちのけで、ティーナとカルオットを交互に見ながらどういうことだと囁き合っている。
そんな中、カルオットだけは表情を変えることは無い。婚約者の肩を抱くその手は、常日頃からそうしているような余裕すら感じさせる。
「……あ……あの、殿下」
「しっ。そなたは口を開くな」
突き放すような冷たい口調に、ティーナは俯きながらドレスの裾をギュッと掴む。でも、
「こんなくだらない茶番、5分で終わらせてやる」
「え?」
「だから、しっ」
「……」
殿下に黙れと言われたら、素直に従うしか道は残されていない。例え、聞きたいことや主張したいことがあっても。
「よし、いい子だーーさて、そこの小娘。聞きたいことがある」
「え?……私ですか?」
「そうだ」
最高に着飾った自分を小娘呼ばわりされたことに腹を立てているシャシェだが、相手は王族だ。すぐに花のような笑みを浮かべて「なんでしょう?」と小首をかしげる。
「お前の歳はいくつだ?」
「……じゅ…18になります」
「そうか。なら、お前はカリナ卿の娘じゃない。ニセモノだ」
「そんなっ!?違います!私は正当な娘でありますっ」
カルオットの言葉で顔色を失ったシャシェは、髪を振り乱して主張する。同じくジニアスも。
「恐れながら殿下、シャシェの容姿をご覧になってくださいませ!この髪と瞳。わたくしに瓜二つではありませぬか!」
シャシェを庇うようにカルオットの前に出た父親を見て、ティーナは確かにこの二人には血縁関係があるのだろうと冷静に思う。
しかし実の娘を前にして、よく言えたものだと寂しさや切なさを通り越して虚しい思いが胸を刺す。
周囲の招待客も不躾な視線をティーナに向ける。あまりの惨めさに、つい胸を押さえれば、肩に乗っている手に力がこもった。
手袋越しの彼の手は、とても温かかった。
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