6 研修と評価

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 昼食後、サンライズはとりあえずちゃんと顔を洗い、髪をとかしてからトレーナーに着替えた。  ライトニングの部屋に着くと、すでに何か本をみながらやっている。 「おはよう」  声をかけると、へたくそな手話で「午後だよ」と返した。  手話を習っているらしい。レポート用紙にもいろいろ勉強内容が書いてある。 「なになに」手話によるナンパ方法。 「渋谷でお茶でもいかがですか?」いいねえ。 「まず、何をやるんですか、センパイ」  彼がシェイカーだというのも聞いたようだ。いや、元シェイカーか。 「何か資料もらってるだろう?」  ちゃんと声が出ているのか、イントネーションもついているのか分からないが、相手には伝わったようだ。  あ、と口を丸くしてからごそごそとテレビの横から赤いA4のバインダーを引っぱり出した。 「あった、これかな? ええと一週目第一日目。自室にて」  最初のページを彼にも見えるように拡げた。 「お互いに、はい/いいえで答えられる質問を三〇〇ずつして記録すること。  質問者と回答者は一問ずつ交互に立場を入れ替えること。  質問側への注意点。個人的な情報を聞く、必ず『はい』か『いいえ』で答えられるものにする、相手に極度の不快感を与えない内容とする、同じ内容のみを、言葉を変えただけで何度も聞かない。  応答側への注意点。必ず『はい』『いいえ』のどちらかで答え、『わからない』『答えたくない』等は無しとする、必ずできる限り即答する、  両者への注意点。メールによる間接的な質疑応答をせず、研修時間中に直接向き合ってすべての項目を終えること。記録は質問者側が行う。答えに対する補足は記録に残しても残さなくてもよい」  これだけだった。  なんじゃこりゃ、てな感じもしたが、仕方がない、やらねば終わらない。  ライトニングから一枚、紙を受け取って部屋の隅にある小テーブルに移動する。  向かい合わせに座れるようになっている。  サンライズは入り口のみえる窓側を選んだ。  まずは質問、サンライズから。手話を使ってみた。 「この療養所近辺の地理に詳しいのか?」  はい、の手話。  次、ライトニング。口を見ろ、と言っている。 「結婚しているの?」  はぁ?   分からん、もう一度言ってくれ。と返す。  子どもの頃、こんなことをして遊んだ覚えがある。 「ケッコン、シテイルノ?」  ようやく分かった。「はい」。  そうだそうだ、次の質問。 「彼女はいるのか?」  にやっとして、ライトニングは「いいえ」。次は彼から。 「今どんな気分?」  手話を使っている。少し考えて、これでは答えられないと気づいてあわてて付け足す。 「正直、ここにいたくないと思っている?」  もちろんだ、とサンライズは強くうなずく。 「オマエはどうだ、ここにいるのは満足か?」  意外な事に、少し迷ってから彼は 「いいえ」  と答え、少し肩をすくめた。  質疑応答は、嘘をついてはいけないという規定はないようだから、この反応は要チェックかもしれない。サンライズは質問項目の頭にレ点をつけた。  次の質問の冒頭を見逃してしまった。 「……好き?」はい? ごめんもう一回。 「奥さんのこと、愛してる?」  答えにくいことを次々とよく聞く小僧だ。 「はい」わざと強く答える。 「さっき満足していない、と言ったが……」  少し気になることを聞いてみる。 「ここから逃げようと、思っている?」  彼は即座に「いいえ」と答えた。目をみると本気らしい。  ここの暮らしはうんざりだが、外には出たくないのか。  地元に愛着がないのか、何か問題があるのだろうか?  
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