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昼食後、サンライズはとりあえずちゃんと顔を洗い、髪をとかしてからトレーナーに着替えた。
ライトニングの部屋に着くと、すでに何か本をみながらやっている。
「おはよう」
声をかけると、へたくそな手話で「午後だよ」と返した。
手話を習っているらしい。レポート用紙にもいろいろ勉強内容が書いてある。
「なになに」手話によるナンパ方法。
「渋谷でお茶でもいかがですか?」いいねえ。
「まず、何をやるんですか、センパイ」
彼がシェイカーだというのも聞いたようだ。いや、元シェイカーか。
「何か資料もらってるだろう?」
ちゃんと声が出ているのか、イントネーションもついているのか分からないが、相手には伝わったようだ。
あ、と口を丸くしてからごそごそとテレビの横から赤いA4のバインダーを引っぱり出した。
「あった、これかな? ええと一週目第一日目。自室にて」
最初のページを彼にも見えるように拡げた。
「お互いに、はい/いいえで答えられる質問を三〇〇ずつして記録すること。
質問者と回答者は一問ずつ交互に立場を入れ替えること。
質問側への注意点。個人的な情報を聞く、必ず『はい』か『いいえ』で答えられるものにする、相手に極度の不快感を与えない内容とする、同じ内容のみを、言葉を変えただけで何度も聞かない。
応答側への注意点。必ず『はい』『いいえ』のどちらかで答え、『わからない』『答えたくない』等は無しとする、必ずできる限り即答する、
両者への注意点。メールによる間接的な質疑応答をせず、研修時間中に直接向き合ってすべての項目を終えること。記録は質問者側が行う。答えに対する補足は記録に残しても残さなくてもよい」
これだけだった。
なんじゃこりゃ、てな感じもしたが、仕方がない、やらねば終わらない。
ライトニングから一枚、紙を受け取って部屋の隅にある小テーブルに移動する。
向かい合わせに座れるようになっている。
サンライズは入り口のみえる窓側を選んだ。
まずは質問、サンライズから。手話を使ってみた。
「この療養所近辺の地理に詳しいのか?」
はい、の手話。
次、ライトニング。口を見ろ、と言っている。
「結婚しているの?」
はぁ?
分からん、もう一度言ってくれ。と返す。
子どもの頃、こんなことをして遊んだ覚えがある。
「ケッコン、シテイルノ?」
ようやく分かった。「はい」。
そうだそうだ、次の質問。
「彼女はいるのか?」
にやっとして、ライトニングは「いいえ」。次は彼から。
「今どんな気分?」
手話を使っている。少し考えて、これでは答えられないと気づいてあわてて付け足す。
「正直、ここにいたくないと思っている?」
もちろんだ、とサンライズは強くうなずく。
「オマエはどうだ、ここにいるのは満足か?」
意外な事に、少し迷ってから彼は
「いいえ」
と答え、少し肩をすくめた。
質疑応答は、嘘をついてはいけないという規定はないようだから、この反応は要チェックかもしれない。サンライズは質問項目の頭にレ点をつけた。
次の質問の冒頭を見逃してしまった。
「……好き?」はい? ごめんもう一回。
「奥さんのこと、愛してる?」
答えにくいことを次々とよく聞く小僧だ。
「はい」わざと強く答える。
「さっき満足していない、と言ったが……」
少し気になることを聞いてみる。
「ここから逃げようと、思っている?」
彼は即座に「いいえ」と答えた。目をみると本気らしい。
ここの暮らしはうんざりだが、外には出たくないのか。
地元に愛着がないのか、何か問題があるのだろうか?
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