兄の夢①

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兄の夢①

 現実の私に兄はいない。いるのは弟が1人だけ。しかしそんな私の夢には何度か、「兄」という存在が出てくる事があった。どれも同じ人物なのか、はたまた違う存在なのかは分からない。ただ共通して夢の中の私は、いつでも兄の事を好いていた。  これは私が覚えている限り、初めて「兄」が出てきた夢の話。  夢を見た当時の私はまだ小学五年生くらいだったが、夢の中の私はもっと幼かったように思う。低学年くらいだっただろうか。  舞台は私の通っていた小学校。全部で3つの棟からなる造りで、その内の真ん中、私達上級生の教室がある棟の1階に私はいた。すぐ右手側にはコンピュータ室。窓などはなく、教室の前に引き戸が1つ設置されているだけで中の様子は見えない。  きょろきょろと何かを探していた私が扉へ近づくと、ピッタリと閉められた扉の向こうから楽しげな子ども達の声が聞こえてきた。その声に「あっ」と思った私は、勢い良く扉を開いた。  コンピュータ室は四方の壁に沿ってパソコンが壁向きに並べられていて、中央には何も置かれていないスペースが広く作られている。まさにその広いスペースに数人の少年達が集まり、ワイワイと楽しそうに遊んでいたようだった。しかし先程私が扉を勢いよく開いた事で、彼らの声はピタリと止まってしまった。当然彼らの視線は、元凶である私に向かって投げかけられる。  どの少年も夢の中の私より少し年上に見える。その上どの顔も見覚えのないもので、私は一瞬怯んでしまった。何も言えぬまま視線を下に向ける私。とその時、集団の奥の方から私の名前を呼ぶ声がした。  私が顔を上げるのを見計らったかのように、声の主は手前に立つ少年達をかき分けながら私の目の前へと躍り出る。彼はなんだか当時見ていたアニメに出てくる、あるキャラクターに少し似ていた。といっても実際のそのキャラクターより、全体的に幼かったけれど。  毛先がギリギリ肩につかない程度の長さで切られた黒い髪と、少しツリ目がちな黒い瞳をした少年。彼は私と目を合わせるなり、ムッと顔を(しか)めた。 「なんでお前がここにいるんだよ。せっかく楽しく遊んでいたのに。」  不機嫌そうなその発言に、あぁこの人は私の兄なのだ、という考えが自然と頭に入ってきた。そう思うとこちらもカチンと来て、知らない子ばかりだというのも忘れて彼に私は怒鳴り返した。 「だってお兄ちゃん、ずるいんだもん!私も遊びたいんだもん!一緒に遊んでよ!」  兄と周りの子達は、いかにも面倒くさそうに顔を見合わせる。互いの顔に向けられた彼らの目からは、どうするんだよ、といった声が聞こえてくるかのようだった。それが悲しくて、悔しくて、私はなおも「一緒に遊びたい」と主張し続けた。  やがて折れたのは兄の方だった。 「仕方ないなあ…。」  兄はやや呆れ気味にため息を吐くと、いつの間にか座り込んでいた私の手を引いて立たせてくれた。 「じゃあ、鬼ごっこな!お前が鬼!」  逃げろ!と笑いながら、兄と仲間達は扉の外へ駆け出していく。みんなが私から逃げていくけれど、不思議と先程までの悲しさや悔しさはなかった。  兄が私を仲間に入れてくれた。ただそれだけで私は嬉しかったのだ。 「みんなずるい!待ってよ!」  廊下へ出ると、もうとっくにみんなの姿は見えなくなっていた。ただ廊下の奥、曲がり角の先の方から彼らの笑い声が確かに聞こえる。それを頼りに私は廊下を走りだそうとした。  そこで目が覚めてしまった。
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