白い女の夢

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白い女の夢

 おそらく中学生くらいの頃に見た、心霊的な恐怖があった悪夢。  私の住む家には結構広い庭があり、自室東側に設置された窓からは砂利の敷き詰められたそこがよく見渡せた。また視線を少し右に動かせば小さな坂で庭と繋がった細い道路と、その向かいに建てられた倉庫や祖母の小さな畑も見ることができた。  夢の中で私は自室の窓際に立っていた。目の前には先に述べた東の窓。カーテンは閉まっており、光が全く漏れていない様子から今が夜であるとうかがえた。  自分自身でも何を思っていたのか思い出せないけれど、私は目の前のカーテンに手を伸ばして開けてみた。家の周りには街頭などないので真っ暗だと予想していたが、月の明かりのおかげなのかある程度外の様子を見渡すことができた。  庭の様子が特に変わらないことを確認してふと視線を右に逸らした時、私は違和感に気づいた。  庭の先、道路の向こう側。倉庫の目の前に白い女が立っている。  比喩などではなく、本当に白い。真っ白。アルビノとかそういうことではなく、白く発光しているかのようだった。そのため月の光しかないはずの薄暗がりの中でも、彼女がどんな格好をしているのかよく見えた。  ひざ丈ほどの白いワンピース。そして白く発光しているというのに、彼女の長く伸びた髪が黒色であるということまで分かった。ただなぜか、どんな顔をしているのかだけは分からなかった。  彼女は特にこちらに顔を向けてくるわけでもなく、本当にただ、道路の向こう側に立っているだけだった。  不思議に思っていると、いつの間にか目の前の窓はまたカーテンが閉じられていた。相変わらず、光は漏れてきていない。なぜか私は感覚的に今は次の日の夜なんだと分かった。  あの女はいったい何だったのだろう。そう思いながら私は目の前のカーテンを開ける。するとまたあの白い女が視界に飛び込んできた。しかも今度は道路の向こう側ではなくこちら側、庭に繋がる坂道の下にいる。  その場で微動だにせずただ立っている白い女がいよいよ不気味に感じてきた時、またいつの間にか目の前の窓のカーテンが閉じていた。  次の日の夜だ。  あの女はまだいるのだろうか。恐る恐るカーテンを開けると案の定、女は坂道を登って庭へと入ってきていた。ほとんど女の真横にある窓から覗いている私に、女は目も向けない。ただただ俯きがちに正面…、庭の奥へと体を向けている。  そうして翌日の夜には庭の真ん中。さらに翌日の夜にはいよいよ体の向きを変えて玄関の方を向いていた。  きっと今日はもう、玄関の前にいる。  また閉められているカーテンを前に、私は確信した。女が何を目的にこの家に入ろうとしているかは分からないけれど、間違いなく明日の夜にはこの家に入ってくる。  怖くなった私は意を決してカーテンを開けた。部屋の窓から、玄関は見えない。そして女の姿も見えない。間違いない、玄関の前にいるんだ。  私は裸足であることも気にせず、窓から外へと逃げ出した。家の敷地を抜け出し、真っ暗な住宅街を走って逃げていく。気づかれないまま逃げ出せていれば一番良かったのだが、後ろを振り返ると女が私を追ってきていた。  どう見ても歩いているだけに見える女のスピードは異様に速く、全力で走っている私との距離をどんどん縮めていった。誰かに助けを求めたかったが、深夜とは言え人の気配が全く感じられない。いつもなら夜遅くとも明かりが点いているはずの家も、みんな真っ暗だ。  焦る私などお構いなしに、女はどんどん近づいてくる。  そろそろ逃げ続けることに限界を感じた私は、一つの住宅に助けを求めた。玄関扉をどれだけ叩いても、声をかけても誰も出てくる様子がない。ただ窓が開いていることに気づき、私は無断で屋内へと飛び込んだ。  しかし女もそれを見ていたようで、結局私は追い詰められてしまった。  じりじりと後退し、部屋の隅へとで逃げ場がなくなった私。そんな私の目の前にどんどん迫ってくる白い女。これだけ近づいても顔が、表情が全然分からない女が怖くて、怖くて、私はとんでもない一言を口にしてしまった。 「あんたの苦しみ、私が全部背負ってやるから!」  ちょうどそこで、私は目が覚めた。  今でも私は時々、なんであんな言葉を言ってしまったのかという後悔と、そのうち何か大きな不幸にでも襲われるんじゃないだろうかという不安に駆られる。
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