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秀明館高校前。
「おい、秋山妙子と生徒会長が御神と一緒に登校しているぞ」
「ああ、やっぱりイケメンに取られたか、公認二股か?」
二人組が御神を妬んだ。
「今、何か視線を感じなかったか?」
御神がそう二人に聞いた。
「どうせ、妙子の追っかけでしょう」
亜理紗がそう言って、三人は教室に向かったが、三人の後ろに秀明館高校の制服ではない、ある男がその後ろ姿を見つめている事に三人共、気付いていなかった。
七月十日、今日は秀明館高校の全生徒が安堵した表情を浮かべる日だ。
何故なら、全学年期末テストが終了する日だからである。
「どうだった、妙子?」
「うーん、あんまり自信ないな」
妙子の表情は暗い。
「蓮司は?」
「まぁ、それなりには自信があると思うかな」
「じゃぁ、また負けたわね」
亜理紗がそう宣言した。
放課後。
「今日は巨人対ヤクルトか」
半藤が席でクラスメイトの上野と会話していた。
「野球の話?」
亜理紗が割り込んだ。隣には妙子がいる。
「ああ、そうだよ」
僕は教科書を見ている振りをして会話を盗み聞きした。
「貴新ってそう言えば野球好きだったわね」
「ああ」
「でもやってないんだよね」
「ああ、背も170cmちょっとだしちょっとスポーツするには不利だしな。それに俺はやるより観る方が好きなの」
「そう言って、やる気概がないだけじゃないの?」
「何だと!」
「私立の部活はどの部活も大変だから仕方がないよ」
御神が仲裁に入った。
「そうね。私立は部活に力を入れている所が多いし、種類が多いから、大変よね。一般的な公立高校を含め、どこにでもある部活といえば野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール位だね」
「そうだな」
御神がそう答えた。
「やっぱり何だかんだ言ってもサッカーが一番面白いよね」
亜理紗がそう主張した。
「いや、野球の方が確かな数字があるから野球が一番面白いに決まっている」
半藤が反論した。
「いや、サッカーの方が戦術面の知的ゲームでしょう」
半藤と亜理紗のバトルが唐突に勃発した。
「どうせ女は○○選手カッコイイと位にしか思っていないだろ」
「そんな、ミーハー気分な訳ないじゃん」
「御神はどっちなんだ?」
「俺はどのスポーツも面白いと思うよ」
「何だ、スポーツに興味があったのか?」
「うーん興味というよりは、知識の一部としてあるのかな」
「ふーん、蓮司、スポーツ詳しいんだ?」
「俺は別にどのスポーツが特別好きという訳でもないし、どこのファンでもないんだ。ただ、スポーツを観るのが好きという人達が多いし、皆と仲良くしたいから、共通の話題を見つける為に調べたり、知識を身に付けているだけだよ」
「そうなんだ。・・・・・なぁ、テストも終わった事だし帰りにファミレス寄ってかね?」
半藤が唐突にそう提案した。
「良いね。賛成」
亜理紗がその提案に乗った。
「皆は?」
亜理紗がそう周りにいる者達にそう訊いた。
「じゃ、お供させて頂きますか?」
御神がそれに乗った。
「私も行こっかな」
妙子も乗り気だ。
「宮内君は?」
亜理沙が宮内に訊いた。
「俺は 用事があるから遠慮しておくよ」
「あっ、そう残念。三堂君はどう?」
僕も誘ってくれた。
そんな事一か月前なら有り得ない事だ。
「行こう、三堂。今度何か奢らせてって約束を守らせてよ」
覚えていたのか。あの時の約束を。
「そんな約束したのか?」
半藤君が会話に入り込んだ。
「ああ」
「じゃぁっ、行きたいです」
「じゃぁ、いつものファミレスに行こう」
半藤がそう催促した。
「賛成」
亜理紗を始め、他の三人もそれに同意した。
あの事件以来、全員が何か一つに結束した気がした。
こんなに心が清々しい想いをしたのは初めてだ。
今、初めて友達というものがどういうものかと実感している。
このままの関係が卒業まで続いて欲しい。
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