第十一章 繋がり

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「しかし、どうやって南野さんと俺はそれぞれ、則島と南野さんの住所を特定出来たんだ?」 「この方法については俺も凄く悩んだ。しかし、君のある行為を思い出してそれが可能だと解ったんだ」 「一体、俺のどの行為がそれを可能にしたんだい?」 「それは第二回目が始まる前に俺達と南野さんがファミレスに会った時の君の南野さんの財布の中身を確認した行為だ」 「財布の中身?」 「ああ、君はあの時、財布のお金を見ていたのではなく、免許証等、住所が特定出来るものを実は見ていたんだ。つまり、あのMDの為に南野さんは裕福だという事を訊き出し、君は「財布の中身を見せて下さい」という一見、滅茶苦茶な要望で南野さんの現住所を知る事が出来たんだ」 「そっか、その手があったか」 「また、南野さんの方は簡単だ。竹飛が同窓会の打ち合わせの時に「今、お前何処に住んでいるの?」と訊き、それを後で竹飛が南野さんに教えれば良い事だからな。MDの「現住所?」の質問は全員、嘘を付く可能性が高い。いや、限りなく高い可能性で質問自体が出ないかもしれない。実際に出なかったしな。だから、MDでは住所を知られない事を想定し、それを実行したんだ。そして、この際言うが、南野さんは陰の共犯者の予定では君に殺害されるつもりだったから、俺が南野さんを疑っている事を悟られぬように君は、南野さんに会う際に君も付いて来て、俺が南野さんを疑っている類の話が出るたび露骨に話題を変えていたんだ。亜理紗がファミレスで南野さんに「貴方はフクマデンですか?」と訊こうとした時も君はそれを制止した」 「だけど、そもそも何故、南野さんはMDに敗北してはならないと思ったんだ?自分と主催者側は仲間だと南野さんは思っていただろうから、それに対し普通は疑問を感じる筈じゃないか」 「それは適当に、「他のプレイヤーに一億円あげる」のが嫌だとか、敗北すると「本当に殺害しなければならないから絶対に負けないで下さい」とでも言ったのだろう。そうすれば、南野さんも納得するだろうし、話す内容も南野さんの死体の代役まで話さなければ良い話だからな」 「・・・・・まぁ、そうなるな」 御神君が圧倒的に押している。 「そして、次がお待ちかねのその死亡推定時刻にアリバイがあった南野さんがどうやって則島を殺害した方法だが、それは実に単純明快なものだったんだ。今からそのトリックを明かそうと思う」 「別に待っていないけどな。しかし、今自分でも言ったけど、則島が殺害された時刻には南野さんにはアリバイがあったじゃないか」 「いいや、南野さんには則島の死亡推定時刻にはアリバイがあったが、死亡時刻にはアリバイがなかったんだ」 「どういう意味だ?」 「つまり、実は則島が殺害された時刻は七月十八日八時から九時頃ではなく、その前日の同窓会が行われた七月十七日二十一時から二十二時の間だったんだ。今、警察が則島が殺害されたと認識している時刻はあくまで死亡推定時間だからな。つまり、死亡推定時刻を十二時間誤魔化して、自分にアリバイがない時間帯に堂々と則島を殺害したんだ。だから、死亡推定時間にアリバイがあったかどうかは南野さんには則島を殺害出来る出来ないに関係の事だ。そして、南野さんは参加していない出身中学の同窓会が行われた時刻にはアリバイがなかったのだから、則島を殺害出来ても、何ら不思議でなないだろ」 「しかし、どうやって死亡推定時刻を十二時間誤魔化したのだ?」 「いいか、半藤。そもそも死亡推定時刻というものは、死後硬直の具合、死体の温度、腐食具合によって推定出来るものなんだ。そして、ここで重要なのは死体の温度だ。通常、人間の死体の温度は死亡直後から室温と同じ状態に推移し、室温状態では一時間で平均0.8度下がる。そして、実際の鑑識では死体を発見した際の体温を測り、さらに一時間後に同じ室温状態でもう一度体温を測り、人間の平均体温、36.5度と仮定し、その体温の降下速度は室温との温度差と比例するという前提で死亡推定時刻を割り出しているんだ。そして、室温が高ければ高い程、死体の降下速度は遅くなる。つまり、南野さんは則島を自宅で殺害したのではなく、殺害してから室温が高い場所に長時間放置し、死体を温めて、死亡推定時間を十二時間誤魔化し、バイトに行く直前に、則島の死体を則島の部屋に移動したんだ。つまり、則島は実際にはもっと前日の同窓会直後に殺害されていたんだ」 「則島の死体を温めた証拠はあるのか?」 「ああ、ある。則島の部屋から灰が見付った。この灰は恐らくは室温を上げる為に、木で焚いた炎を使い、則島の服に付着してしまった灰だったんだ。そして、その灰が則島の死体を則島の部屋に運ぶ際に落ちてしまったんだ」 「・・・・・しかし、そもそもずっと同窓会に参加していた則島をどうやって南野さんが極秘に殺害出来たんだ?だって、則島はずっと同窓会の行事には全て参加していたんだろ?それは一緒に参加していた同級生もそう証言していたじゃないか。もし仮に、同窓会の二次会が終了してから、つまり、二十三時頃に南野さんが則島を殺害出来たとしてもその時にはもう南野さんはバイトに出ていてアリバイがあったではないか。それはバイト先のレンタルビデオ店の店長が証言している。しかも、それはお前の口から訊き出した事だろ?」 「慌てるなよ、半藤。則島が南野さんに殺害されたのは紛れもなく七月十七日で二次会終りの二十三時ではなく、二次会中の二十一時から二十二時頃だ。そして、誰にも気付かれずに、南野さんが殺害出来る方法はあるんだ。その為には第三者が必要となってくる」 「第三者?もしかしてまた別の登場人物が出てくるのか?」 「いや、その登場人物は既に出ている」 「何だって、一体誰なんだ?」 「もう知っているくせにまだ惚ける演技をするのか?良いだろ、教えてやるよ。則島と共に中学校の同窓会に参加し、今回の同窓会を企画した竹飛敏彦だ」 「また、そいつか」 「だんだん、演技が大根役者みたいになってきたぞ。半藤」 「うるせーな」 「いいか、半藤。そもそも誰にも見られていない所で殺人事件が発生するという事は殺害する側と殺害される側とで双方でアリバイがない事が必要だ。つまり、南野さんが同窓会に参加していなくて、則島がその時間帯に同窓会に参加しているという事はその時間帯に南野さんにはアリバイがなく、則島にはアリバイがあるという事になり、一件誰にも見られていない所で殺人事件が起こるのは不可能に思える。しかし、そこに他の同窓会参加者に言った竹飛のある言葉という匙を加える事でそれを不可能から可能に変える事が出来たんだ」 「で竹飛は一体どういう魔法の言葉を言ったんだ?」 「その魔法の言葉を発表する為には、同窓会についての流れとその時の竹飛と南野さんの行動を一度説明する必要があるのだが良いか?」 「相変わらず回りくどいな」 「そもそも、同窓会を開いた最大の理由は則島が大勢の人間と一緒にいるという状況下で南野さんが則島を殺害する機会を作る為だったんだ。同窓会の一次会は某居酒屋で行われた。そして、宴もたけなわという事でそれが終了し、店を出た所で今回の同窓会の主催者である竹飛がこう言った。「二次会はカラオケ。参加する人は付いて来て下さい」と。そして、同窓会の主催者であった則島は、二次会に参加した。・・・・・」 「話が良く分からなくなってきたな」 「では、改めてこの時、竹飛と南野さんがした事を一から全て説明し直そう。まず、竹飛は中学の同窓会を企画した。この同窓会は、実は則島が大勢の人間と一緒にいるという状況下で南野さんが則島を殺害する為に企画された会だったんだ。そして、竹飛は同じ中学の参加者を大勢募った。その後、竹飛から連絡が来た則島とその則島と南野さんの中学時代の同級生であの同窓会の幹事であった竹飛が同窓会の前に一度打ち合わせという名目で個人的に則島と一度居酒屋で会った。この会はさっきも言った通り、決して同窓会の打ち合わせではなく、則島からMDに関する情報を訊き出す為に行われたものだ。つまり、この時点では南野さんが個人的にその竹飛と則島の現時点での個人情報を訊き出す事は同窓会を企画するという契約を結んで、その対価として金銭を渡したんだ。酒の席では気が緩みやすくなる。だから、その時、則島はMDの事を忘れ、則島は竹飛に洗いざらい訊かれた事を喋った筈だ。そして、まんまと則島からMDの質問内容に関する情報を訊いた竹飛は南野さんにそれを伝えた。そして、第一回目のMDが開催され、則島はMDで敗北した。その後、則島は殺害される恐怖を抱えながら十七日まで過ごしていた筈だから、なるべく大勢の人達と一緒にいたかった筈だ。そして、則島は大勢の人間と一緒に過ごすという安心を求め同窓会に参加した。しかし、南野さんは則島殺害の為、同窓会には参加しなかった。その後、一次会の居酒屋では久しぶりの再会を懐古し、話が弾みながら何事もなく終わった。いや、強いて言うのならば則島がそこにいた事を他の参加者達に印象付ける事がここでの仕事だったんだ。そして、話は二次会に移る」
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