第十一章 繋がり

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「話が長くなりそうだな」 「ああ、そうだな。話を戻そう。まず、竹飛が二次会の参加者を募った。そして、少しでも大勢の人間と一緒にいたかった則島も二次会に参加した。木元さんの話によると二次会いは殆ど参加していたらしく三十人程だったらしい。ここで、竹飛がさりげなく、「則島二次会にも来るんだ」と言ったんだ。そして、二次会会場であるカラオケ店に全員が向かった。しかし、その道中、他の同窓会参加者の列から少し距離を取り、則島と二人っきりで談笑しながら歩いていた竹飛がこっそり、「用があるから一緒に来てくれ」と則島を路地裏に連れ出した。そこに待ち伏せしていた南野さんが、竹飛の左胸をナイフで刺し、殺害した。木元さんは何となく、竹飛がカラオケ店に向かう道中いなかった様な気がしたと言っていたが、参加者達は皆アルコールが入っているし、二次会の参加者は三十人と大人数だった事から二人抜け出した事に気付く事は容易ではない。そして、直ぐ様、竹飛が他の同級生達の列に戻り、参加者をカラオケ店へ誘導した。竹飛は四部屋のカラオケボックスを用意し、それぞれの部屋に参加者達を案内させた。竹飛の近くにさっきまで二人で話していた則島の姿が見えない事に気付いた参加者にもし「則島は?」と訊かれたら、ここで魔法の一言「則島は別の部屋にいる」と言ったんだ。その一言で竹飛以外の二次会の参加者達は則島はこの近くの空間にいると錯覚してしまうんだ。カラオケボックスという大勢の人数が収容出来ない空間を利用したトリックだ。そして、全員が帰る時にそこに則島の姿が見えない事に気付いた参加者がもしいて、再び竹飛に「則島は?」と尋ねてきたら、竹飛が「則島は何か用が出来たから先に帰った」と言って、実際は則島が二次会に参加していなくても、参加している様に仕立てたんだ。これはその場にいない者があたかもずっとそこにいた風に見せる錯覚トリックだ」 「・・・・・でも則島が「用事があるから一次会で帰るわ」と言い出したらどうするつもりだったんだ?」 「その場合は、その帰り道で南野さんが待ち伏せし、殺害すれば良い事だ。つまり、主催者Xが南野さんに用意した殺害方法は二重策だったんだ。第一、死亡推定時刻を誤魔化し、南野さんのアリバイを作る。第二、竹飛を手伝わせ、則島のアリバイを作る。これが最高であったが、それが出来なかったら場合、第一の策だけで済ますつもりだったんだ。しかし、もし則島が二次会に参加しないと言い出したら、竹飛が強引に則島を誘っていた筈だ。則島は同窓会の前に一度、竹飛と建前上打ち合わせをしている立場から二次会も参加しなくてはならない義務みたいなものもあった筈だし、則島の方もフクマデンに殺害される恐怖から、出来るだけ大勢の人間達と長く一緒にいた方が安全という心理が働き、参加した方が身の安全が確保出来る。実際、木元さんの話によれば、一次会の参加者ほぼ全員が二次会に参加した事から、現場は参加しない方が不自然な流れだったと思うから、一次会で帰る事はまずあり得ないだろう。そして、これは俺の推測だが、同窓会の主催者である竹飛は同窓会の日時を第一回目のMD終了後から第二回目のMD開始までの間で則島が用事のない日を選択し、同窓会の日時を決めたんじゃないかな。そうする事で則島は確実に二次会に参加させる様に仕組んだ。それに真夜中に用事がある人なんてそうそういないだろうしな」 「・・・・・なるほどね。しかし、実際にそれが行われたという証拠はあるのか?」 「ああ、ある。昨日、それを三堂と一緒に一生懸命探したんだ」 昨日の記憶が蘇った。 「君もいた七月十八日の夜にファミレスに南野さんと会った時、南野さんは銀色の腕時計を着けていなかった。そして、南野さんが死んだ後、南野さんの自宅で探したが腕時計は無かった。腕時計は例え、電池切れになったとしても修理に出せば三十分も掛からず電池交換出来るし、簡単に壊れる物ではないから、常に自宅か自分の腕にある筈のものだ。そして、それは三堂が川口の路地裏のビール瓶の箱から発見してくれたよ。南野さんの壊れた腕時計をね。直ぐに鑑識に回して貰ったら、腕時計には則島の指紋が付着していた。恐らく、則島を殺害する際に、揉み合って腕時計が外れてしまったんだろ。腕時計がビール瓶の箱の中に入ってしまったんだ。これが則島が川口の路地裏で殺害された証拠だ。一秒でも早くそこから立ち去ってバイトに向かいたい南野さんは腕時計を探すのを諦めて、則島の死体を人間が入る程の大きなトランクケースの中へ入れ、近くに止めてあった車の中へ乗せ移動したんだ。そして、そこから近くの恐らく主催者Xが用意した異常に暖かいある部屋に死体を放置した。その後、急いでバイト先のレンタルビデオ店に向かって、昼までバイトをし、アリバイを作った。川口から西日暮里までなら電車で十五分もあれば着く。そして、十八日のバイト終了後に放置してあった部屋に向かい、その部屋から則島の死体を運び出し、車へ乗せ、則島の自宅へ向かい、則島の服の中から則島の自宅の鍵を探し出し、部屋へ死体を放置したんだ。そして、その日の夜、俺にファミレスに呼び出されていた南野さんは、川口の則島殺害の現場で腕時計を探す余裕もなく、腕時計をしないまま俺達の目の前に現れたんだ」 「あの時、そんな状況だったのに南野さんは約束通り、ファミレスに来たんだ」 「ああ、そして次はいよいよ君が第二回目のMD終了後から三回目のMD開始までの期間に南野さんを殺害する方法の話だが、心の準備はもういいかい?」 「・・・・・ああ、俺はやっていないのだから、何故、心の準備をする必要があるんだ?それに南野さんは自殺したという事は確定だし、仮に殺害されていても俺には南野さんの死亡推定時刻の八時から九時にはお前達といたという鉄壁のアリバイがあるからな」 「いや、南野さんは自殺したのではなく君に殺害されたんだ。でも心の準備はいいのか。そうか、なら早速話すぞ。南野さんの死亡推定時刻である七月二十四日の八時から九時頃、俺達と行動し、アリバイがあった君が南野さんを殺害するのは一見不可能に思える。しかし、これも則島殺害の時、同様、死亡推定時刻を誤魔化す事で君はアリバイを手に入れ、アリバイがなかった日時に堂々と南野さんを殺害したんだ」 「どういったアリバイトリックで俺は南野さんを殺害出来たんだい?」 「それは主催者Xが新たに用意した巧妙な時間錯覚トリックだ」 「則島殺害に使った時とは違う手という事ね」 「そうだ。しかし、本質は同じだ。則島の死亡推定時刻を遅らせた様に君も南野さんを殺害した後、死亡推定時刻を遅らせる為に南野さんの死体を室温が高い場所に放置して、南野さんの自宅に運んだんだ。そして、その甲斐あって南野さんが殺害されたのは七月二十四日の七時から八時と警察は推定したが、実は実際に殺害されたのは七月二十四日の八時から九時ではなく、その前日の七月二十三日の夕方頃だったんだ。つまり、君は南野さんの死体を七月二十四日の早朝に南野さんの自宅に恐らく、遠野さんが運転する車に乗せて、運んだ」 「しかし、どういう手を使って俺は南野さんの死亡推定時間を誤魔化したんだ?」 「そもそも、何故俺達が南野さんの死亡した日が七月二十三日の八時から九時と決めつけてというと、警察が死体の発見が遅れ、死亡した時間が割りにくい状況にあったのも勿論ある。しかし、その日のその時間帯に俺が南野さんに出したメールの返信が直ぐにあったから、その後、南野さんは殺害されたと断定したんだ。死んでいる人間がメールを出せる筈ないからな。つまり、俺達は南野さんは七月二十三日の二十時頃の時点ではまだ生きていたと思い込んだ。しかし、その判断は実は間違いだった。メールの返信があった時、南野さんは既に君の手で殺害されていた」 「だったら、その時、誰がお前にメールの返信をしたんだ?」 「当然、君はあの時、俺達と一緒にいたからメールの返信は出来ない。だから、それをしたのは遠野さんか主催者Xだ。彼らのどちらか俺の問いに答えたんだ。つまり、その返信ボタンを押したのは南野さんではなく、遠野さん若しくは主催者Xだ。そうする事で今俺に対し、メールの返信をした人物が南野さんだと錯覚する事になる。しかしその時、南野さんは既に殺害されていた。俺に対して返信をした後、携帯電話を郵便受けの中から入れた。だから、携帯電話が玄関に転がっていたんだ」 「・・・・・」 「こちらから誰かに連絡したい時にはメールか電話の選択肢があるが、返信する場合は相手が使った連絡の手段と同じ手段を使って、返信する事は人間の惰性だ。だから、君はあの時、「メールで連絡を取れ」と俺にさりげなく催促したんだ。これはその時まだ南野さんが生きている事を俺自身の手で確認させたかった為だ。当然、相手からの返信は電話ではなくメールが来て、それに対して俺達は何も不思議に思わない。文字なら、誰が打ってもその打った相手は本人かどうかは判らない。つまり、声ではなく文字を利用する事により、俺達にその正体を気付かせないという工夫をしたんだ。そして、君は南野さんの死体を部屋に運び終え、南野さんの死亡推定日時である七月二十四日の八時からに俺達と行動を共にして、鉄壁のアリバイを作り、実際の殺人は俺の家に集まる直前の七月二十三日の夕方頃に行ったんだ」
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