第十一章 繋がり

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「しかし、どうやって、南野さんの部屋の中から俺は姿を晦ましたのだ?南野さんが発見された部屋には鍵が掛かっていて、その鍵は南野さんの服の中から出てきたではないか。それに南野さんの合鍵も机の引き出しの中から出てきたし、窓も割れた形跡がなく、鍵は閉まっていたしな。この状況だったら、南野さんは自殺したで良いじゃないか」 「いや、それでは短絡的な考えに過ぎない。あの密室のトリックは実に単純明快なものだ。今からそれを説明するが、もし君がまだそれを実行したフクマデンではないと言い張るのならば、君がその部屋にいる事を仮定とし、想像力を働かせて聞いてくれ」 「そうだな。じゃ、たまには想像力を働かせて聞いてみるか」 「それじゃあ、話すぞ。まず、君は、南野さんは自殺した事にしたかった。それは部屋から見つかった遺書から、則島、島内の二人を殺害した償いと就職活動が上手くいかずにという事を動機に自殺した事にしたかったんだ。つまり、君は遠野さんと共に南野さんの首を絞めて殺害し、南野さんの死体を室温が高い部屋に移動させ、放置し、翌日の早朝、遠野さんと共に南野さんの自宅に死体を運んだんだ。そして、南野さんの死体を天井に釣り下がっている物干し竿首吊り状態にし、部屋を密室にする事で、南野さんが自殺した事に見せかけたんだ。そして、その為に使ったトリックを今から図を使って説明しよう」 そう言い放つと御神君は鞄からペンと白い紙を二枚取り出し、机の上に二枚共置き、ペンを右手に持った。 「君は七月二十三日の夕方頃に恐らく遠野さんと共に南野さんの自宅まで行き、君達はどちら開きドアに隠れ、もう一人がチャイムを鳴らした。そして、ドアの覗き穴から見た君達どちらかが南野さんと対応し、南野さんを廊下に出させ、背後を向かせ、隠れていたもう一人背後から手に持っていたロープを南野さんの首に巻き、二人で力一杯締め付けて、抵抗する南野さんを殺害した。恐らく、南野さんが油断しやすい様に、チャイムを鳴らして対応したのが遠野さんで、ドアに隠れて南野さんの首をロープに巻いたのが君だ。君が対応したら、南野さんも不審がり、部屋から出てこないかもしれないしな。そして、その後、南野さんの携帯電話を奪い、南野さんの死体を車に乗せ、室温が高い部屋に運び、暫く放置した。そして、二十一時から俺達と一緒にいる事でアリバイを作り、俺に南野さんにメールをするよう指示し、その返信を恐らく携帯電話を奪った遠野さんがして、もう既に死んでいる南野さんがその時まだ生きていると俺達に思わせた。そして、翌日、七月二十四日の早朝に南野さんの死体を温めていた部屋から出して車に乗せ、南野さんの自宅に向かい、死体を車から運んで部屋に入れ、パソコンで作成した遺書を机の上に置き、ある密室トリックを仕掛ける事を開始したんだ」 「・・・・・」 「そして、それには南野さんの部屋の構造、位置がそのトリックを使用する上で都合良かった・・・・・・いや、そのトリックを実行する為の必要条件だったんだ」 「一体、それはどんな条件なんなんだ?」 「まずは、玄関から部屋までが一直線に繋がっている事。次に最後に部屋の玄関に郵便受けがある事。そして、その郵便受けの穴が大きく、部屋側に突起物がない事だ。そして、君が用意しなければならない物がある。それは高さだ」 「高さ?」 「そうだ。今からトリックの流れを図で説明し、その際にその高さが必要な理由を話すから、聞き洩らさないようにしてくれ。まず、南野さんが着ていた服が部屋の鍵が入る程の穴かポケットがある服ではなければならない。もし、穴のない服を着ていたのならば、南野さんに持ち合わせていた服の中で穴かポケットのある服に着替えさせる。実際、殺害された時南野さんが着ていた服は首元に大きな穴があったカットソーだ。もし、カットソーを持っていなかったら、胸にポケットがあったYシャツでも構わない。南野さんの就職活動中だったから、Yシャツの一枚や二枚持っていた筈だ。しかし、Yシャツではなく、カットソーが選ばれた理由はより穴が大きかったからだ。まず、物差し竿にロープを結び、南野さんの死体を台の上に立たせる。そして、そのロープを南野さんの首に括りつけて、台を自ら苦しみながら倒した様に倒し、自殺に見せかける。次に、摩擦係数を少なくする為に、油を塗った糸を用意し、その糸の端を南野さんの首当たりにガムテープで貼り、その糸のもう一方の端を予め、郵便受けを通し、Uの字になる様に糸を部屋の外まで持ってくる。次に、郵便受けの入り口を開き、ガムテープで開いたまま固定し、君が外に出て、部屋を施錠し、用意した高さのある脚立等に乗り、そこから鍵の輪を糸に通し、糸をつたって部屋に流す。そして、鍵が南野さんの首に貼ってある終端の糸まで行ったら、今自分が持っている始端の糸を引っ張る。すると、部屋の中の鍵はガムテープが剥がれ、重力によって南野さんが着ていたカットソーの穴に落ちる。そして最後に、糸を手繰り寄せ、郵便受けを通して、糸と二枚のガムテープを回収する」 御神君はそう解説しながら、紙に絵を描いた。 「これは力学的エネルギーと位置エネルギーが保存するという物理現象を利用した物理的トリックだ。具体的に言うと部屋の外の地面を原点にすると、そこから南野さんの首の高さまでは1.9m程だった。身長170cmの君が腕を上に伸ばした時の最大高さは2・1m、そして、例えば、2m以上の高さのある脚立の上に乗ると、鍵が持つ位置エネルギーはU=mghより、2倍以上になる。例え、摩擦等でエネルギーが失われても、十分に南野さんの首の高さまで達する事が出来る計算となる。これは首を吊っている南野さんよりも高い位置にいる筈もないという、盲点を利用したトリックでもあるな。・・・・・これは南野さんの部屋で発見された糸の切れ端だ」 御神君が掌を開く。 半藤君が眉間に皺が寄る。
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