十六 ただやみくもに恋をした

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「そっか……。歌かぁ」  私は独り言のように呟いた。  颯の提案は、何か新しい希望の種のように感じられた。  “失敗したら直す。それを繰り返せば、いつかは思い通りになる”  その言葉がふっと頭を過ぎる。  人生もプログラミングみたいだな、と私は思った。  私はこれまで、直すことをせずにただただ失敗を繰り返してきただけだったのだ。 「私には何もない。何もないから……誰かが向けてくれる恋愛感情にすがるしかなかったのかもしれない。でももう、誰かに捨てられて苦しいのは嫌。今までとは違う、新しい生き甲斐を見つけたい」 「できるだろ、晴なら」  颯に視線を向けると、年下のくせに、私よりも未来が見えているかのような確信の笑みを見せている。   「大丈夫、俺が側にいるから。これからも俺は晴の友達だし、一人にはしないから」 「颯……」  視界がじわりと滲んでいく。 「言ったじゃん。絶対大事にするって」  その言葉を聞いて、私はこれまで大きな勘違いをしていたんじゃないかと思った。  つまり、これまで私が信じ、すがりついてきた愛情と、颯が私に向けてくれる愛情は、まるで別物のように感じられたのだ。  太陽のような笑顔が、私の芯に灯をともす。  きっとそれは、颯が私にくれた新しい命のかけらなのだろう。この灯を守っていけば、きっと生きていける。 「颯、ありがとう……。ありがとう」  零れていく涙は、潮風と同じ味がした。  私はこれまで、何を躍起になっていたんだろう。  なぜ恋愛をすることでしか、自分の価値を測れなかったんだろう。  でもきっと、いつか今日にたどり着くために、私はただやみくもに恋をした。 〈終〉  
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