1 暗闇の中の恐怖

10/18
328人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「どうした?」  俺の浮かない雰囲気を、前からでも感じたのだろうか。  そう振り返り尋ねてくる來海に「何でもない」と言って、俺は乾いた笑みを作った。  前を向いたのを確認し、雨が降りそうな程どんよりと曇った空を見つめる。  俺は、夜盲症という病気を患っていた。それは明るい所では普通に見えるけれど、暗い所では見えないという病気だ。  小さい時、俺はそれが普通だと思っていた。暗い所で人は活動できなくて、だからこそ電気をつけ活動する。  だから、月翔が暗い中でも動けたのを見て驚いたものだ。  彼は電気を消した後も見えているように動き、『喉が渇いた』と嘆く俺に側に置いていたペットボトルを差し出した。  最初に感じた異変はそんなもので、俺はそれは月翔の人としての特徴なのだと思っていた。  だが、違った。  暗い所で人は、瞬時には見えなくても時間が経てば適応し、暗い中でもそれなりに見る事が出来る。  それを知った時には、俺は夜盲症の診断を受けていた。 「ここか?」 「ああ、そうだ。ちょっと待ってな、今鍵を出すから」  レモン色の一軒家。小さいながら庭もあり、だがそこは花も植えられてなければ野菜もない、本当にただ場所だけあって、そこだけ見れば寂しいとも言える場所を横目に、俺は家の鍵を鞄のポケットから取り出した。 「やっと来ましたか」  だが、門を抜けた所で声が聞こえてきた。  庭には何もないが、一応濡れ縁もあって、そこに快陸は座っていたらしい。  腕を組みながら難しい顔をして近づくと、繋いである俺たちの手を見て「おや」と声を発す。 「早いですね、もうそんなに進んだとは……僕も頑張らなければ」 「……何か勘違いしてないか? これはただの手助けであって、深い意味は――」 「水臭えこと言うなって、あんなに真っ赤になってたくせによ」  誤解してそうな口調にすぐにその誤解を解こうと思ったのに、俺の言葉を遮った來海は繋いでいた手を掲げ、そこにチュッとわざとらしい音を立てキスをしてきた。 「な、何するんだ。それに赤くなったのは――」 「震えてたのも可愛かったな~。この手だって、お前から掴んでくれたしなぁ?」 「だから――」 「真っ赤な顔して俺を受け入れてくれてよ~。あの顔、今日の俺のおかずに……」 「それは違うだろ!」  とことん俺の言葉を遮った來海は、最後に嘘を交えやがった。  なのでつい大きな声を出すと、にやりと來海の口角が上がる。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!