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「どうした?」
俺の浮かない雰囲気を、前からでも感じたのだろうか。
そう振り返り尋ねてくる來海に「何でもない」と言って、俺は乾いた笑みを作った。
前を向いたのを確認し、雨が降りそうな程どんよりと曇った空を見つめる。
俺は、夜盲症という病気を患っていた。それは明るい所では普通に見えるけれど、暗い所では見えないという病気だ。
小さい時、俺はそれが普通だと思っていた。暗い所で人は活動できなくて、だからこそ電気をつけ活動する。
だから、月翔が暗い中でも動けたのを見て驚いたものだ。
彼は電気を消した後も見えているように動き、『喉が渇いた』と嘆く俺に側に置いていたペットボトルを差し出した。
最初に感じた異変はそんなもので、俺はそれは月翔の人としての特徴なのだと思っていた。
だが、違った。
暗い所で人は、瞬時には見えなくても時間が経てば適応し、暗い中でもそれなりに見る事が出来る。
それを知った時には、俺は夜盲症の診断を受けていた。
「ここか?」
「ああ、そうだ。ちょっと待ってな、今鍵を出すから」
レモン色の一軒家。小さいながら庭もあり、だがそこは花も植えられてなければ野菜もない、本当にただ場所だけあって、そこだけ見れば寂しいとも言える場所を横目に、俺は家の鍵を鞄のポケットから取り出した。
「やっと来ましたか」
だが、門を抜けた所で声が聞こえてきた。
庭には何もないが、一応濡れ縁もあって、そこに快陸は座っていたらしい。
腕を組みながら難しい顔をして近づくと、繋いである俺たちの手を見て「おや」と声を発す。
「早いですね、もうそんなに進んだとは……僕も頑張らなければ」
「……何か勘違いしてないか? これはただの手助けであって、深い意味は――」
「水臭えこと言うなって、あんなに真っ赤になってたくせによ」
誤解してそうな口調にすぐにその誤解を解こうと思ったのに、俺の言葉を遮った來海は繋いでいた手を掲げ、そこにチュッとわざとらしい音を立てキスをしてきた。
「な、何するんだ。それに赤くなったのは――」
「震えてたのも可愛かったな~。この手だって、お前から掴んでくれたしなぁ?」
「だから――」
「真っ赤な顔して俺を受け入れてくれてよ~。あの顔、今日の俺のおかずに……」
「それは違うだろ!」
とことん俺の言葉を遮った來海は、最後に嘘を交えやがった。
なのでつい大きな声を出すと、にやりと來海の口角が上がる。
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