1 暗闇の中の恐怖

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「な、なんでそんな事になったの!?」 「あの手紙あっただろ? その事について詳しく聞きたいというのと、お見舞いに来たいって言うから連れて来た」 「ぼ、僕がそれを望んでないって、陽人は気づいてくれたでしょ? 何でそんなことしたの?」 「お前が会いたがらないだろうってのはすぐに想像できた。でも、この目で見たくてな」 「み、みたいって、何を……」 「お前が誰を好きなのか、本当に恋愛の意味で誰かを好きになったのか」  立ち上がりかけた月翔を手で制す。表面を繕ったような、必死に訴えるような目で俺を見てきた月翔は、「違う!」とガラガラの声で叫んだ。 「ぼ、僕は誰も好きじゃないよ? ただ快陸に告白されて、誤魔化すために來海の事を好きな振りをしていただけで……本当に、誰も好きなんかじゃない」  月翔は、昔から嘘を吐くのが下手だ。  隠し事も下手で、だからこそ俺たちの間には嘘も隠し事も存在しなくて、こんなの俺じゃなくても月翔の言葉が嘘だって明らかだった。 「気、遣わなくて良いんだぞ」 「…………」 「俺はお前の笑っている姿が好きだ。誰かと一緒に居る事でそれが増えるんなら、その人と一緒に居た方が良い」 「でも――っ」 「だから、待たなくて良いんだ。俺の事なんて、待たなくても良いから」  月翔の頭に手を乗せ、おでこに貼られている冷えピタの感触を確かめるように髪を梳く。  今まで寝ていたからか乱れているけれど、さらさらとした手触りの髪の間を何度か行き来させ、最後にポンポンと軽く叩いた。 「二人、連れてくるな。お昼はちゃんと食べたか?」 「……食べた」 「そうか」  その返事に安心し、立ち上がった俺はそのまま月翔に背中を向けた。後ろから伝わる視線を無視して、後ろ手でドアを閉める。  そのまま階段を下りて、リビングの方に向かった。  玄関から家の中に入っていき右にあるドアを開けると、ソファで二人向かい合わせに座っており、俺に気付くと顔を上げる。 「待たせたな、月翔の部屋は二階だ。案内するな」 「陽人、良いよ。下で話そう」 「……月翔。大丈夫か? そんな薄着で降りてきて、寒くないか? 辛くないか? ちょっと待ってろ、今温かい飲み物を入れるから」  俺の後ろから付いて来ていたらしい月翔は、薄い毛布を肩にかけそのまま立ち尽くした。快陸と來海の間で視線を行き来させ、快陸が立ち上がり「どうぞ」と譲る。迷ったようだけれどその席に座ったのを見届けると、快陸は來海の隣に腰を下ろした。 「お前らは、お茶で良いか?」 「お気遣いなく」 「何でも良いぜ」  お客さんにも関わらず飲み物を出していなかったことを思いだした俺は、今更ながら台所に向かい零しそうになりながらも慌てて麦茶を用意し、それぞれの前にコップを置き月翔の隣に座った。
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