1 暗闇の中の恐怖

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「一応、熱測りな」 「分かった」  体温計を月翔に差し出し、生温くなった冷えピタを交換する。  それから喉の調子を聞きだし、夕飯のメニューを決め、冷蔵庫の中身を確認しに行き漸く落ち着いた所で、ふうとソファに背を付ける。 「三十七度二分。ほら、大分下がってる」 「って言っても、油断は禁物だぞ。毎回治りかけって時にぶり返す事が多いからな」 「うん、分かってる。気を付けるよ」  俺が風邪を引く度に口を酸っぱく言っているからだろう。苦笑しつつ頷いて、それから話が途切れた所で快陸が鞄からプリント類を取り出した。 「これ、今日休んでいた分です」 「ああ、ありがとう」 「それから、今日新入生歓迎会で何に出るか決めたんです。月翔は僕と同じバスケにしたんですが、良かったですか?」 「え、僕バスケなんて出来ないけど……っていうか、新歓でバスケ?」 「うちの高校は、新歓と称した球技大会を行っているみたいですね。サッカー、バスケ、バレーから選ぶように、との事でした」 「……全部できないやつだ」  月翔が見るからに憂鬱そうに頭を抱える。  運動、特に球技が出来ない月翔にとっては、球技大会なんてサボりたい程嫌なものだろう。  実際中学の時は『サボる!』と宣言していた彼を学校に引っ張っていくのは大変だったし、その期間の機嫌は最悪なものだった。 「陽人の所は、何するの?」 「新歓か?」 「そう」 「うちは普通に部活紹介だな。球技大会は別であるけど、まだ少し先だ」 「いいな~」  俺が淹れたはちみつレモンに口を付け、月翔は羨ましそうに目を細める。  記憶する限りでは、球技大会は来月だったはずだ。俺は月翔ほど体を動かす事に苦手意識はないから、無難に出て乗り越えようと思っている。 (そうだ)  と、俺は前々より気になって、けれど聞く相手もいなかった事を聞こうと、向かいに座っている快陸と目を合わせた。 「月翔は学校で、上手くやれてるか? ちゃんと馴染めているか?」  俺の言葉は、完全に過保護な親のような台詞だという事は感じていた。  それでも尋ねずにはいられない俺に、顔を見合わせた快陸と來海は、安心させるように快陸は笑い、來海は頷いてくれ、それで俺は大丈夫なんだと安心できた。 「人気者ですよ、月翔は。告白が絶えなくて、いつ心を攫う人が現れやしないかと気が気ではないくらいです」 「月翔がか?」 「ええ、クラスのアイドル的存在ですからね」 「そう、か……そうか、それは良かった。楽しそうだな」 「もちろんです、僕がいる限り退屈はさせませんよ」  自信満々に快陸はそう言い、頼もしいその姿に俺はまた「そうか」と呟いて、それから鳴ったスマホに「悪い」と席を離れた。
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