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脳裏では諦めたように涙を流し膝を抱える月翔の姿が浮かんでいて、今との違いにじわりと胸が温かくなった。
懐きやすいように見えて心を開くまで長い月翔も、ああしてぐいぐいと来られると心を開きざるを得なくなるらしい。
学校が離れて一番の気がかりは友達が出来るかだったが、快陸のような人が近くにいるのなら大丈夫だろう。
友達以上恋人未満という難しい関係だが、さりげなく快陸から視線を外していた様子を見ると、月翔もその気がありそうだ。
問題は俺の事を気にして振る事だが、月翔の想いが快陸にある事を快陸も見破ってそうだった。
快陸が粘り強さを見せれば、彼らはきっとうまくいく。
だから俺の事で、迷惑はかけないようにしなければ。
そう決意し、振動し続けるスマホをタップした。
「何だ?」
『陽人!』
いきなり電話口で叫ばれ、俺はスマホを耳から離した。
『あんなに言ったのに、何先に帰ってんだ!! 今家か? ちゃんと帰れたのか?』
「ちょっと落ち着け、剛。俺は大丈夫、ちゃんと帰れたよ。無事に家だ」
『それなら良かったけど……事故に遭ってやしないかって、気が気じゃなかった』
大袈裟に、剛は安堵の息を吐く。
剛には、俺が夜盲症である事を言っていた。というより、黙っておくつもりだったのだがある時バレてしまった。
それ以来、彼の周りに今まで俺のような人が居なかったからなのか、異様に心配され、出来ることにも手を出してこようとする始末。
俺が夜盲症である事を黙っているのは、こうして異様な心配をされるのが嫌だからというのもあった。
明るい場所では普通の人と何ら変わらない生活をすることが出来る、けれど明るい場所でも剛は何かと手を貸してくる。
だがそれが善意からの行動だと知っているから、俺は何も言う事が出来ない。
「帰り、月翔の知り合いに会ったんだ。月翔の見舞いに一緒に帰ったから、大丈夫だったよ」
『ってことは今、家にその人もいるのか?』
「ああ、月翔と喋ってる」
『そうか……悪かったな、お客さんがいる時に。それだけ確認したかったんだ。また明日、学校でな』
「こっちこそ、悪かった。また明日」
挨拶を述べ、通話を終了する。
話し声が聞こえなくなり音を立てるものがなくなった廊下は、一気にシンと静まり返る。その瞬間はどうも苦手だなと思いながら、そのままリビングへ戻ろうと俺は体を回転させようとした。
けれどそこで、背後に感じた気配に動きを止める。
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