1 暗闇の中の恐怖

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「……光葉來海?」 「すごいな、もう区別つくのか」 「だって、眼鏡かけてないじゃないか。それに雰囲気が光葉兄弟のチャラい方だ」 「嬉しいね~、こんなにすぐ雰囲気を覚えてくれるなんて」  全く違う雰囲気に、覚えるも何もないと思うのだけれど。  なんて事は口に出さず、俺はこれはどんな状況なのかと首を傾げた。  なぜ俺は、後ろから抱きしめられているのだろうか。  昼もこんな状況になっていたが、來海は後ろから抱き着くのが好きなのだろうか。  それとも、俺の頭が顎を乗せるのに良い位置だから……なんて、悲しい事は言わないよな? 「でも良ければ、俺の事は『光葉兄弟のチャラい方』なんて言い方しねえで、『來海』って呼んで欲しいものだな」 「確かに、光葉って呼ぶと紛らわしいよな。分かった、なら俺の事も陽人で良い……って、最初からお前はそう呼んでいたな」  後ろから顔を覗いてくる來海と視線を合わせるように、俺も顔を上に上げる。  実は、彼らの呼び方をどうしようかと思っていた部分があった。  初対面でいきなり名前呼びするわけにもいかないし、かといって苗字で呼んでは紛らわしそうだ。  俺たちはどうだったかと思ったけれど、双子だからこそ今まで月翔と同じクラスになったことは無いし、共通の友達はいつの間にか名前で呼んでいて、名前で呼ばれ始めたタイミングを覚えていない。  だからどう呼べば良いかと思っていたので、きちんと言ってもらえてありがたかった。 「ほら、呼んでみろって。俺の名前、もう覚えただろ?」 「あ、ああ、もちろん。でもこうやって期待されると、呼びづらいんだが……」 「お前に呼ばれたいんだ。期待しまくりだから、恥ずかしがったまま呼んでくれ。顔を赤らめるのも忘れないでな」 「……なんだ、それ……そう言われると、呼びたくない」 「んな事言わずに、な? じらさないで、早く呼べって」  後ろから回された手は俺の胸元で組まれ、その上に俺は手を重ねる。  名前を呼ぶだけなのに、こういう状況を作られると呼びにくい。それにこうも顔が近いと、余計に羞恥が増してしまう。  今、俺の顔は來海の狙い通り赤くなっているのだろう。囁かれた声は耳の近くで、それは妙に色っぽい。  これは単なるおふざけで、來海は俺をからかっているだけというのは分かっている。  それでも意識してしまうのは、この距離の近さがあいつを彷彿とさせるからだろうか。  來海の態度にもういなくなってしまった彼を一瞬思い出し、かぶりを振る事で頭から消し、俺はせめてと赤い顔を見られぬよう下に俯けた。  ゼロ距離で、名を呼ぶまで離してくれなさそうな來海の名を、届くか届かないか分からない程小さな声でぼそりと呟く。
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