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「……光葉來海?」
「すごいな、もう区別つくのか」
「だって、眼鏡かけてないじゃないか。それに雰囲気が光葉兄弟のチャラい方だ」
「嬉しいね~、こんなにすぐ雰囲気を覚えてくれるなんて」
全く違う雰囲気に、覚えるも何もないと思うのだけれど。
なんて事は口に出さず、俺はこれはどんな状況なのかと首を傾げた。
なぜ俺は、後ろから抱きしめられているのだろうか。
昼もこんな状況になっていたが、來海は後ろから抱き着くのが好きなのだろうか。
それとも、俺の頭が顎を乗せるのに良い位置だから……なんて、悲しい事は言わないよな?
「でも良ければ、俺の事は『光葉兄弟のチャラい方』なんて言い方しねえで、『來海』って呼んで欲しいものだな」
「確かに、光葉って呼ぶと紛らわしいよな。分かった、なら俺の事も陽人で良い……って、最初からお前はそう呼んでいたな」
後ろから顔を覗いてくる來海と視線を合わせるように、俺も顔を上に上げる。
実は、彼らの呼び方をどうしようかと思っていた部分があった。
初対面でいきなり名前呼びするわけにもいかないし、かといって苗字で呼んでは紛らわしそうだ。
俺たちはどうだったかと思ったけれど、双子だからこそ今まで月翔と同じクラスになったことは無いし、共通の友達はいつの間にか名前で呼んでいて、名前で呼ばれ始めたタイミングを覚えていない。
だからどう呼べば良いかと思っていたので、きちんと言ってもらえてありがたかった。
「ほら、呼んでみろって。俺の名前、もう覚えただろ?」
「あ、ああ、もちろん。でもこうやって期待されると、呼びづらいんだが……」
「お前に呼ばれたいんだ。期待しまくりだから、恥ずかしがったまま呼んでくれ。顔を赤らめるのも忘れないでな」
「……なんだ、それ……そう言われると、呼びたくない」
「んな事言わずに、な? じらさないで、早く呼べって」
後ろから回された手は俺の胸元で組まれ、その上に俺は手を重ねる。
名前を呼ぶだけなのに、こういう状況を作られると呼びにくい。それにこうも顔が近いと、余計に羞恥が増してしまう。
今、俺の顔は來海の狙い通り赤くなっているのだろう。囁かれた声は耳の近くで、それは妙に色っぽい。
これは単なるおふざけで、來海は俺をからかっているだけというのは分かっている。
それでも意識してしまうのは、この距離の近さがあいつを彷彿とさせるからだろうか。
來海の態度にもういなくなってしまった彼を一瞬思い出し、かぶりを振る事で頭から消し、俺はせめてと赤い顔を見られぬよう下に俯けた。
ゼロ距離で、名を呼ぶまで離してくれなさそうな來海の名を、届くか届かないか分からない程小さな声でぼそりと呟く。
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