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「ら、來海」
「もう一回、今度は顔を見せろ」
「な、なんで名前呼ぶだけで、そこまで……」
「だって、呼び慣れてない今が一番恥ずかしがる時期だからな。お前が恥ずかしがっているのが見たいんだよ」
「からかわないでくれ、それにこの状況が既に恥ずかしいだろうが」
「顔を見ないと、恥ずかしがってるのも分からないなぁ?」
そう言われても、こんな変になっているであろう顔を見せる訳にはいかない。
だと言うのに來海は横から覗き込もうとしてきたので、必死に顔を背けた。
「顔を見せないんなら、キスしてやろうか?」
「き、キスって……ひゃっ」
ほ、本当にキスしてきやがった!
首の後ろに生温い感触を感じ、それだけではなくそのままの状態で話し出すので、くすぐったいったらありゃしない。
「ほら、こっち向けって」
「や、やめろ、って……」
「じゃないと、もっといじめてやるけど? これ以上されたくないんなら、な? こっち向いた方が身のためだぞ」
妙に艶っぽい声で、來海は自分勝手さが全面に出ている台詞を言った。
距離を取ろうとする俺に対し、距離を詰めようとする來海。
終わりの見えないこの闘いは、いつ幕を閉じてくれるのだろうか。もしや、本当にもっとき、キスとか、してくるつもりなんじゃ……。
本気だと言うように、俺の反応を伺い無言になった來海が怖い。
耳をふにふにといじくり、緊張が増した所で息を吹きかけられた。思わず漏れた声はふっと笑われ、より顔の赤みが増した気がした。
耳から離れた來海は、うなじに指を這わせ、段々と顔を近づけてくる。
こ、これ以上は耐えられない。
怖いくらいに鳴っている心臓の音に、思わずギュッと目を瞑ったところで、聞こえてきた第三者の声に俺はパッと顔を上げた。
「ちょっと、何いじめてるの」
「月翔!」
恥ずかしさが爆発しかけていた俺は瞬時に來海から逃げ、月翔の後ろに隠れた。
「大丈夫?」
「あ、ああ……だだ、大丈夫、だ」
「片言じゃん、どんだけいじめたの」
「い、いや、俺が慣れてないだけだ。良い反応するから、からかわれてただけだよ」
「それにしても、顔真っ赤だよ。ここまでする事ないのに」
月翔が俺の頬を両手で挟みながら、來海を睨みつける。
そんな姿を見て、妙に感慨深くなった。
いつも庇うのは俺の方だったのに、今庇われてるのは俺だ。
俺は縮こまって月翔の背中に隠れ、月翔は俺を守るように手を背中を大きく見せる。
それが妙におかしくて、段々と恥ずかしさが引けてきた。
爆発しそうだった心臓も普通に戻るため減速し、顔の熱も落ち着きそうだ。
それでも珍しいこの状況が惜しくて、俺はそのまま月翔の服の裾を握り來海を見た。
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