1 暗闇の中の恐怖

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「ちっ、月翔のせいで元の顔に戻っちまった」 「そんな事を言うんなら、今後陽人に近づくのは禁止にするけど?」 「それはやめろ、俺はそいつが気に入ったんだからな」  來海の顔に浮かんでいたにやついた笑みが月翔の言葉で失せ、真剣みが増した。  それを見て、月翔が驚いたように目を見開いた。俺を見て、それから來海を見て、また俺を見る。 「陽人?」 「何だ?」 「來海の事、好き?」 「いきなり何だ? 好きも何も、今日会ったばかりだからな……まあ、いい奴だとは思うぞ? からかうのがなければな」  苦笑しつつ來海に目を向ける。  今日散々からかわれてきたが、本当に困っている時彼は躊躇わず手を貸してくれそうだ。  実際、今日外で手を引いてくれた。  側に居続けるのは大変そうだが、その本質は優しいもの。  なので良い奴、だとは思う。 「残念だったね、全然伝わってないみたい」 「そうなんだよな、お前の兄はどうなってんだよ? どうしたら伝わるんだ?」 「陽人はそういう事には相当鈍いと思うよ? なんせ、今まで守られてきたんだから」 「守られてきた?」 「そう、独占欲の強い人にね」  月翔の声音が、暗く濁った。  あいつの事だ、と察した俺は、月翔の手を掴む。 「月翔、あいつの事は……」 「そうだね、ごめん」  月翔は苦笑し、この話は終わりと手を叩く。  それを合図に廊下にて謎に行われていた集会は終了し、リビングに月翔を先頭に戻った。途中で月翔が來海に話しかけ、月翔と快陸のコップが空になっているのを見ておかわりを注ぎに台所へ向かう。  いつも二人だけのこの家に、二人の客人が加わり賑やかになった我が家。  それはまるで、あの頃が戻ってきたようだった。 ……なんて。  戻りもしない過去を思い、俺は一人苦笑した。  △▽ 「陽人のこと、本気なの?」  月翔の少し前にいた來海に話しかけると、來海は月翔に歩調を合わせ横に並んだ。 「だったら何だ?」 「……軽く言ってるわけじゃ、ないんだよね?」 「疑ってるのか? 確かに今日会ったばかりだけど、本気で手に入れたいと思った。悪いけど、これからどんどんアピールさせてもらうからな」  自信ありげにそう宣言する來海を見て、逆に月翔の表情は陰った。 「それ、は……ごめんだけど、僕は協力できないかもしれない」 「……何でだ?」  声が沈んだ月翔に、來海はただ首を傾げる。そんな彼を直視できず顔を俯けたが、來海の視線が絶えず頭の先に注がれていることは、その熱い視線から伝わった。
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