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「陽人が誰かと付き合ってくれたら嬉しい、笑って幸せそうにしていたら僕まで嬉しくなる。けど、かき回されて泣かれるのは嫌なんだ。正直言うと、陽人は面倒臭いよ? 忘れられない人はいるし、病気を抱えている。いつだって陽人の中は不安だらけで、でも僕にさえその不安をぶつけたがらない。察して動くなんて、『気遣い』の言葉も知らなそうな來海に、できるの?」
リビングに着いた二人は、ソファの横に立ちじっと見つめ合った。
おちゃらけたような月翔の口は声の調子通りに弧を描いているが、その瞳は真剣だった。
陽人の事を傷つける者は誰であっても許さない、それは普通の家族よりも強い絆だ。彼らの間には、双子である以上に複雑なものが散りばめられている。
そんな想いのこもった強い視線を受け止めた來海は、いつもの人をからかうような笑みを引っ込め、じっと月翔の真意を探るようにその瞳を見つめる。
だがやがてふっと微笑むと、側に立ち事の成り行きを見守っていた快陸に腕を差し出した。
「知ってるだろ? 俺らの家は、先祖代々会った瞬間に落ちた人を一生愛し大切にしてきた。そして俺は、陽人に会った瞬間『こいつだ』と思った。今日接しただけでも、あいつの色んな面を知りたいと思うし、力になりたいと思う。今もどんどん、惹かれている。――だから」
何かを察した快陸が、來海の腕に自身の腕を重ねた。腕をクロスさせたまま、自信満々な表情を二人で浮かべ、月翔を見つめる。
「俺らはお前らを落としにいく。例え長い時間がかかっても、諦めるなんてありえないし、泣かせるなんてもっとありえねえ。一生に一人しか好きな人とは出会えないって、小さい頃から言われてんだ。たとえ面倒な恋愛になったとしても、『好き』が上回る自信があんだよ」
勝気に、傲慢に、來海はそう言ってのけた。
それを聞いて、月翔は何だか泣きたくなった。目尻に浮かんだ涙をバレないようにそっと拭い、パッと顔を上げる。
「じゃあ、期待してる!」
陽人の、深い闇を晴らせるように。
諦めている心に、再び光が差すように。
そんな願いを込め浮かべた笑顔を、二人は眩い笑みで受け止めた。
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