1 暗闇の中の恐怖

2/18
328人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「これだけ渡してくれれば良いから! 陽人ってバレないように、言葉は交わさなくて良いから! ね、お願い!」  手を擦り合わせ懇願してくる月翔は、俺が納得するまで引かなそうだ。 「はぁ……分かったから、お前はもう寝ろ。体調はどうなんだ? ごはん、食べられそうか?」 「え、っと……お昼はちゃんと食べる」 「分かった、お粥作っておくから」  言いながら、月翔の額に手を当て体温を確かめた。  元気に喋っているように見えるが、それは見せかけだ。普通にしていても体温は高いし、食事も喉を通らない事が多い。  なので冷蔵庫から桃味のゼリーを取り出すと、月翔の前に置いた。ついでに水と薬も置き、作っていた朝食にラップをかけお粥を作り始める。 「あ」  その時、不意に外で稲光が走った。部屋に青い光が入り、ギョッとした顔で俺は外を見る。 「これは……最悪だな」  今日は曇りだと思っていたが、外は起きてすぐに見た時とは比べものにならないくらいに暗く、雨が降り始めている。  この天気では、登校に時間が掛かる事が多い。  いつもは月翔を頼りにしている道も、今日はいない。  その事で心配そうに月翔から視線を送られるが、俺は苦笑し頷いておいた。  これくらい、平気だ。時間をかけていけば何とかなる。  だからパッとお粥を作り朝食を食べ、身支度を整えると家を出た。  俺の通っている李咲(りさき)学園は、徒歩十分ほどの所にあった。  偏差値はそこそこ高い共学で、文武両道を目指し部活は強制、ちなみに俺は天文部の幽霊部員をしている。  家を早めに出たにもかかわらずギリギリで教室に入った俺は、遅刻しなかったことに対しホッと安堵の息を零した。  入学して早々に遅刻をし目立ちたくはない。  それに俺が遅刻をした事で、月翔に負い目を感じて欲しくなかった。 「あれ、陽人?」  そんな朝の事を思い起こしていると、机に影が落ちた。 「どうした、弁当持ってるんだろ?」 「いや、ちょっと……自販機で、飲み物でも買ってこようかと」 「それなら俺が買ってきてやるって。何が欲しいんだ?」 「え……っと」  入学して友達となった羅口(らぐち)(こう)は、世話焼きなのか何かと俺の事を心配し、あれしようかこれしようかと手助けしてくれる。  そんな剛を、誤魔化しはぐらかせるとは思えない。  なので早々に諦めた俺は、「実は」と心配させないように明るい口調で話した。 「ちょっと弟に用があるんだ。だから、悪い! 先に食べててくれ!」 「え? でもお前、外……!」 「すぐ戻るから!」  有無を言わさず、月翔の制服が入った袋を抱え教室から飛び出る。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!