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月翔の通っている高校は俺が通っている高校のすぐ隣、こことは違い男子校だ。
俺のとこは茶色のブレザーで、あっちは学ラン。二つの学校の間にある公園のトイレでサッと着替えると、『龍王高等学校』と厳つい名前の付いた学校に忍び込んだ。
龍王高校の生徒数は中々多い。ここら辺の生徒はそこそこ頭が良かったら李咲学園へ、平凡な成績だったら龍王高校、または少し離れた所にある高校へと進学する。
なのでそれなりに大きい校舎に圧倒され、そういえばこの高校の敷地内に入るのは初めてだ、と今更ながら緊張で汗が滲んだ。
厚い雲が太陽を隠し、どんよりと重い空気を作り出す。
一応持ってきた傘を握りしめ、俺は中庭を目指した。
「そういえば……中庭って、どこだ?」
しまった、聞くのを忘れていた。
ふらふらと適当に歩いてきたものの、校舎に入って右にあるのか左にあるのか、それすらも分からない。
一応右に行ってみたのだが……合っているのだろうか?
「あ」
と、泣きそうになりながらもとりあえず進んでいると、何やら声が聞こえた。
見ると近くにあったベンチに男が座っている。
「やべっ、零しちまった」
何かを零してしまったらしい。困っている様子に近づくと、足元にコツリと缶が当たった。
「あの、これ」
「あ? ああ、悪い」
コーヒーだろう。運悪く学ランにも付いてしまったらしく、パタパタと脱いだ学ランを乾かそうとしている。
「待て、それじゃ染みになるだろ。貸せ」
「ハ? 貸せったって、お前……」
いくら学ランが黒とはいえ、よく見れば染みは分かるものだ。彼が何年か知らないが、例え三年だとしてもこれから一年近くは着る事になる。そんな大切な学ランを、四月から汚したくはないだろう。
なのでポケットに入れていたハンカチを取り出すと、手で零した部分を確かめつつ彼の手から奪い取った学ランの部分に当て、染みを取ろうとした。
「ティッシュ、は……持ってないか。持ってたらちゃんと対処出来たんだが……悪い、帰ったらすぐにクリーニングに出してくれ」
「あ、ああ」
気のせい、だろうか。
男が、ポカンとした表情を浮かべている気がした。ジーッと俺を見てきて、先程よりは目立たなくなった染みを見て、それから俺を見て、学ランを返そうと差し出した手を掴まれる。
「お前、誰だ?」
「へ?」
「木暮、かと思ったけど雰囲気違えし……そもそも、木暮は今日休みだろ? 木暮のドッペルか?」
どうやら、彼は月翔と面識があったらしい。
染みになったら大変だ、と慌てて月翔らしく振る舞う事を忘れていた俺は、見た目をそっくりにしたにも関わらずやはり雰囲気からバレてしまったようだ。
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