1 暗闇の中の恐怖

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(悪い、月翔)  謝りつつも、今更ながら月翔らしく振舞おうと、へらへらとした笑みを浮かべた。 「や、やだな~、ぼくだよ、月翔だよ。ほら、こんな顔のやつなんて、他にいないでしょ?」 「いや、木暮なはずねえ。木暮なら俺を見た瞬間、飛び付いてくるはずだ」  つ、つきと~~!?  真面目腐った調子で言う男の言葉に、思わず俺は心の中で我が弟に非難の声を浴びせた。  恋愛は自由だ、男が相手でもそれは変わらない。  だが、見た瞬間に飛び付くほどオープンにして良いのだろうか。  いくらここが男子校と言っても、男同士の恋愛に違和感を感じる人もいるはず。そもそも月翔は新入生、中学まで共学だった生徒にとって、そんな恋愛は未知の世界だろうに。 「あ、そうだ、ぼく……光葉、快陸? を、探してたんだったー」  それは彼かもしれない。  このラブレターのような物を渡す相手は、オープンな愛情表現をしているという彼かも……いや、彼しかいないだろう。  そう確信しつつも、しらじらしくそう言ってみた。  言いながらチラリと見ると、「ふむ」と顎に手を当てこちらをじっと見た男は、「それ、俺だけど?」と期待していた答えを返してくれた。 「はい、これ! じゃあ渡したから、お、ぼ、ぼくは行くね! また明日! ……ぶっ」  ここは素早く立ち去るが吉、と逃げようと体の向きを変えた所で、何かに顔面からぶつかってしまった。 「あ、ごめ……」 「月翔!」 「わっ」 「ん? 月翔じゃ、ない……? 君は?」 「ぶふっ、秒かよ」 「ちょっ、離せって! 苦しい、苦しいから!」  いきなりがっちりと抱きしめられつつ首を傾げられても、まともな受け答えなど出来るはずがない。  力強い腕の中で、必死にじたばたと手を動かす。  すると俺の訴えを聞いたからか、俺の必死さに可哀そうとでも思ってくれたからか、漸く腕の力を緩めてくれたそいつを見上げ、ごほごほと軽く咳き込んだ。 「一体、何だって……って、え?」  そこには、先程と同じ男が立っていた。  いや、そんなはずないと後ろを振り返ると、またしても同じ顔。  俺はいつの間にやら、同じ顔に挟まれていた。 「ふた、ご?」 「そうです、すぐに思い至るなんて頭が良いんですね。月翔は僕らを初めて見た時、『え? え?』と言うだけでまともな言葉が出ませんでしたから」 「あれもあれで傑作だったけどな~」 「笑ってはいけませんよ、來海(らいあ)」  その時の月翔は余程面白い行動を取ってしまったらしい。  ぷふっと堪えきれない笑みを零している男を見て、自分の事のように恥ずかしくなった。
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