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「あれ? ……って、らい、あ?」
「ああ、そうだ。はいこれ、お前にだって」
「ん? 何です?」
彼は嘘を吐いていたようだ。
快陸はこの敬語の眼鏡をかけている方。思い返すと月翔は、『眼鏡かけた見た目は秀才っぽい人』と光葉快陸を表現していた。
快陸は眼鏡をかけているが、來海と呼ばれた人はかけていない。
月翔の言葉を見逃し、俺は人違いをしてしまったらしい。
眼鏡をかけていない來海と呼ばれた男は、先程受け取った手紙をそのまま快陸という男に渡すと、その場で快陸は封を切り読み始めた。
「月翔はどこですか?」
「え、っと……」
「そもそも、貴方は誰です?」
「俺は、その……月翔の兄で……」
「兄? なるほど、だからそんなにそっくりなんですね。まあ僕は騙されませんけど。……名前は?」
「……陽人」
「何年生ですか?」
「月翔と同じ一年だ、俺らも双子だから」
「へえ」
じっと、物珍しそうに快陸の視線が上下する。
月翔は自分が双子だという事は言っていなかったようだ。
これまでは同じ学校に通っていて、双子だという事は言いださずともバレていたのだが、こうして違う学校に通うと自分から言わない限りバレやしない。
その事が何だか、少し不思議な気がした。
「わっ」
と、そう感傷に浸っていた所で、いきなり後ろから迫った気配が油断していた俺の両脇の間から手を入れてきて、大袈裟に体が跳ねた。
顔を上げると俺の顔を後ろから覗き込んできた來海と目が合い、間近からククっと笑みが漏れる。
「こうして見ると、奇妙なもんだな。同じ顔なのに、全然違う」
「そうですね。姿かたちは同じでも、申し訳ないですけど僕は彼には全くそそられません」
「ならこいつ、俺が貰っても良いか?」
「おや、興味が?」
「ああ。何か、惹かれた」
「珍しいですね、貴方がそんな事を言うなんて」
俺の頭上で、俺を見世物のように見ながら、ポンポンと言葉が交わされる。
「っつーわけでお前、俺のもんにしても良い?」
「……ハ?」
「キスしても良いか? ……って、ダメって言われてもするけど」
からかわれているような、冗談としか思えない口調。
何だこいつ? と本気でない方向で進めようとしたら、人を嘲るような笑みを浮かべたまま來海の顔が近づいて来て、慌てて俺はその口に両手を当てた。
「何、しようとした?」
「何って、言っただろ? キスって」
「冗談だよな? 会って一時間も経ってないやつにキスしようとするなんて……本気なわけないよな?」
「ん? ん~……悪いけど、本気」
「ギャー!」
こ、こいつ! 俺の手、舐めやがった!
「む、無理だから! 俺、男は恋愛対象外だから!」
何とか來海の気を削ごうと、必死に言い募る。
男同士の恋愛に偏見があるわけではない。むしろ恋愛は性別関係なしに自由にして良いし、何なら俺も前、男と付き合っていた。
だが、今俺は恋愛をしたくない。
誰にも弱みを見せたくないし、誰にも縋りたくはなかった。
だから俺は、拒むための言葉を紡ぐ。
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