1 暗闇の中の恐怖

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「ぶはっ……ククっ、その必死さ、ウケる」  俺がさせまいと舐められた手を引っ込めずに堪えていると、いきなり笑い出した。  來海は笑いの沸点が低いらしい。先程から些細な事で笑い、腰を曲げる。  笑われるのは面白くない。例えこちらに何の非もなかったとしても、変な行動を取ってしまったのではないかという気になる。  なので笑うなとジト目を送ると、ポンと頭をひと撫でされた。 「からかって、悪かったな」  素直にそう言うと、一歩退く。  やはり、先程の言葉は冗談だったようだ。快陸の恋愛対象が男だとしても、來海もそうだとは限らない。  その事にホッと息を漏らしたところで、快陸が「さて」と手を叩いた。 「アドレスを交換しましょうか」  言いながらスマホを取り出す彼に、俺は首を傾げる。 「え? 何で?」 「何でって、月翔にこれを問い詰めないといけませんから。あと、お見舞いにも行きたいですし」 「けど、月翔って弱ってる姿見せたがらないぞ? 来ても追い返されるのが目に見えてるし」 「なら、これを読んでください」 「これ、って……手紙?」  快陸に渡した手紙を渡され、読んでも良いのかと目で尋ねると頷かれたので手を出し受け取った。 「って、なんだこれ?」  そこには、我が弟ながら中々にズバリとした一文が書かれていた。 『快陸とは付き合えないから、これ以上付きまとわないでください』  男にしては丸々とした文字で書かれたそれは、読む者の心を苦しめる。 「こんなにはっきりと言われる程、月翔に付きまとったのか?」 「おや、目つきが鋭くなりましたね」 「当たり前だろ。月翔は大事な弟だ、俺の目の届かない所でストーカー被害に遭われても困る」 「ストーカーなんて酷い、ただ毎日『好き』をアピールしているだけだと言うのに」 「そもそも、何でこれを俺に託した? おかしいと思ったんだ、月翔はこんな頼み、普段なら絶対にしない。月翔に、何をした?」  まるで親の仇とでも言うように快陸に詰め寄る。  月翔は甘えたがりだ。あれして、これして、と些細な事を頼んでは、『ありがとう!』と満面の笑みで礼を述べる。  だが、困るような頼み事は滅多にしない。  俺を外に、一人で行かせるような頼みごとなんて、滅多にしない。 「ただ、今日返事を下さいと言っただけですよ。『断る』とは何度も言われていたのですが、本当の返事を下さいと。……だって、月翔も僕の事、好きとしか思えない態度を取りますからね」  結果、フラれてしまいましたが。  そう、弱弱しく快陸は笑った。  月翔は來海が好きだと思ったのだが、違うのだろうか?  本当は快陸が好きで、でも快陸からの告白を断って……?  いや、快陸の妄想が月翔の姿をそう見せているだけで、本当に來海の事が好き?  ……頭が混乱してきた。  案外、彼らの仲は複雑なのかもしれない。  月翔の想いがどこに向いているかは知らないが、そういう事なら仕方が無い。  気まずいからか俺を使って断ろうとするなんて……快陸の様子から、すぐにバレるのは目に見えているだろうに。  月翔は嫌がりそうだが、ここは素直すぎる程感情を表に出している快陸に免じて、会わせてあげようではないか。  そう決意し、俺もスマホを取り出した。
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