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家から学校までの道のりはこの数週間で大体覚えた。
だから、最初の頃より頼りない足取りではない。
けれどこの暗い道が、俺は嫌いだった。
すぐ近くにある闇が俺の中に入り込み、不安を煽りたて、目に見えない恐怖に支配されそうになる。
なので急いで帰ろうとするのだけれど、急ごうとすればする程足は重く、思い通りに動かない。
その事を経験として知っていたので、俺はゆっくりと確実に、足を進めていった。
「長いな」
だが、一人で歩く道は月翔と歩く道よりも長く感じる。
距離は同じであるはずなのに、誰かがいるのといないのではなぜこうも体感として違うのだろうか。
まだ少ししか歩いていないのに、俺は既に疲れ始めていた。
「危ねえ!」
そんな中、叫び声と共に腕を引かれた。学校と家のちょうど真ん中あたりのそこで、体重が後ろに流れバランスを崩しかける。
それを立て直し下げていた視線を上げると、目の前に電柱が迫っていた。どうやら、もうすぐ激突してしまう所だったらしい。
「あ、わ、悪い」
何やら聞いたことがあるような声音だなと思いながら振り返ると、俺の腕を掴んでいたのは今日の昼休みに会った來海だった。
「なんで、ここに……」
「何でって、つけてきたからな。いつ気づくのかと思って見守ってたのに、全然気づいてくれねえんだもんな。寂しかったぜ?」
「……ごめん」
「謝んな、責めてるわけじゃねえよ。それより帰るんだろ? 道案内、頼む」
陽気に笑い、來海は掴んでいた手を離そうとした。
それを、俺は阻んだ。
一瞬離された手を今度は俺から掴みにいき、驚いたような気配の來海から逃れるように、視線を足元に向ける。
「怖いのか?」
「……ああ」
「そうか」
何が怖いのかは言っていない。
ただ、何かが怖いのは、震える手を見れば明らかだった。
そんな俺の恐怖を紛らわせるため、再び掴み返された手を俺は黙って受け入れた。
並んで歩き、口で家までの道を説明しつつ、その手に縋る。
俺は、暗闇が怖かった。
真っ暗は当然の事、曇り空だって恐怖を与える。
明るい空も嫌いだが、曇りの空はもっと嫌だ。外は、俺にとって恐怖でしかなく、誰かに頼り、温もりを感じる所でないと安心できない。
けど、もう俺は高校生だから。
いつも誰かに手を引いてもらえるような年齢じゃないから。
『大丈夫』だと自分を誤魔化して、無条件で頼れる家族がいないのを良い機会に一人で帰ろうとしたけれどやっぱり怖くて、気丈に振舞おうとした心が温もりを感じた事により決壊した。
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