1 暗闇の中の恐怖

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「ごめん……本当に、ごめん」 「だから、謝んなって」 「……ごめん」 「ああ、もう! その口、塞いでやろうか!」 「ごめ……っ」  ごめんしか出て来なくなった俺の口を右手で挟むと、その口の横、あと数ミリで唇という場所に唇を寄せられた。  間近に迫った男らしい端正な顔立ちに息を詰まらせ、俺の体は固まってしまう。 「お前……男が恋愛対象外とか、嘘だろ」 「……へ?」 「普通はいきなり顔を近づけられたら、驚きはするが赤くならねえぞ」  言われ、パッと顔に手を当てた。 「赤いか?」 「おう、真っ赤だ」 「……悪い、こんな顔見せられても気持ち悪いよな。すぐに落ち着けるから、ちょっと待っててくれ」  慌てて当てた手はひんやりとしていて、熱くなった顔の熱を吸い取ってくれる気がした。  大きく息を吸って、吐いて、心臓の音を落ち着かせる。 「お前、昼の俺の話ちゃんと聞いてたか? 俺はお前に、『惹かれた』って言ったんだぜ?」 「あ、ああ。そんな事言ってたな」 「惹かれたやつのそんな顔見せられて、そそられない訳ないだろ? 落ち着けなくて良いから、その顔もっと見せろよ」  切なそうに目を細めると、來海は俺の顎を掴んできた。今度は先ほどのからかうような雰囲気ではなく、真剣な雰囲気で、ゆっくりと顔を近づけてくる。 「お前……ここは大人しく、キスされる所だろ」 「な、何言ってんだ! こんな誰に見られてるか分からない所でするものでもないし、そもそもそういう事をする仲じゃないだろ、俺らは」 「そういう事をする仲になりたいって俺は言ってるんだけどなぁ? ……まあいいや、帰るんだろ? 快陸はもう向かってっから、早く行こうぜ」  來海の口に当てていた両手を外すと、彼は俺の右手を取り歩き出した。  自分の情けなさに沈んでいた心は、來海とのやり取りにより隅に追いやられ、震えていた手はいつの間にか止まっていた。  掴まれているおかげで、周りに広がっている恐怖が薄れている。  それは確かに怖いけれど、身が竦むような恐怖ではなく、そこらに転がっているような恐怖だった。 「ありがとな」  だからそうさせてくれた來海にぼそりと礼を言うと、俺の言葉に立ち止まった來海が俺の頭に手を乗せてきた。 「ごめんより、そっちの方が良いな」  本当に嬉しそうに口角を上げると、再び歩き出す。 (俺は、本当に……周りの助けを借りて生きてるよな)  それを見て、ふとした瞬間に思う事を俺は今日も頭に浮かべた。  いつも誰かに頼って、自分の足で中々立てなくて、心配されて、手を借りて生きている。  その事が本当に情けなくて、自立したくて、でもできなくて。  最近そんな思考がぐるぐると巡って落ち着かない。      
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