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プロローグ
白いライトを煌々と浴びながら演壇の中央に立つ黒いスーツ姿の初老の男は、さながら舞台役者のように大袈裟に腕を振り上げた。その動きで汗が飛び散り、小さなきらめきが瞬いた。
「今、こうしている間にも、世界は終末へと向かっている」
男の言葉を一言一句聞き逃すまいと、会場を埋め尽くす五百もの人々は、目を見開き、固唾を呑んで男を凝視する。
「慈悲深い神々は、これまで、愚かな人間の愚かな行いをお赦しになってきた。だが神々の造りたもうたこの妙なる世界は、人間によって破滅へと進んでいる。人間は神に見放された。人間はガイアの怒りに触れたのだ」
振り上げていた腕が小刻みに震えるほど、男は拳を握り締める。"ガイアの怒り"を体現するかのように。
ふと男は腕を下げると、演台の両側に手をつき、ひどく落胆したように白髪まじりの頭を垂れた。
「我らが偉大なるマハーカーラ……」
重苦しい沈黙が流れる。会場のあちこちに設置されたビデオカメラが作動していることを示す小さな赤いライトさえ、じっと息を潜めている。
ややあって、男は頬の痩けた顔をゆっくりと上げた。
「悠久の時を司る、大いなる神マハーカーラは、その無限なる慈悲により、新たな御託宣を施された」
おお、と会場がどよめいた。老いも若きも、女も男もみな一様に、期待と不安に睫毛を震わせる。
彼らの視線を浴びる演壇の男は、そうした人々をゆっくりと見渡してから、徐に口を開いた。
「今日、ここに集いし者、遠い地で言葉を聞きし者」
その声音はこれまでと違い、低く、重々しいものに変化していた。まるでマハーカーラ神が、男の体を借りて言葉を発しているかのように。
「この世でいち早く、マハーカーラに近付きし者たち。この者たちは、いずれ世界の終焉に立ち合うこととなる。だが」
一旦言葉を切り、挑むような眼差しを浮かべる。
「己の業を償うべく、苦難に満ちた輪廻転生の途にある我が信者たちよ。我はそなたたちの苦難を消し去ろう。我を信ぜよ。祈りを捧げよ。世界が滅びたのち、我が信者たちは、無垢なる魂とともに新たな世界を構築する者となろう」
大地を揺さぶるような鬨の声が会場内に響き渡った。ある者は立ち上がり、またある者は床に跪いて両手を合わせた。
「我らが偉大なる神マハーカーラは、慈悲深き神」
信者たちの快哉の叫びに負けじと、演壇の男は両手でマイクを掴んだ。
「一人でも多くの人々を救うことが我らの務め。未だマハーカーラの教えを知らぬ憐れな人々を今こそ導かん! 転生の苦しみから解放し、天界 へと誘うのだ!」
「偉大なる神、マハーカーラよ!」
どこからか男の声が上がった。
「マハーカーラの御言葉を伝えし偉大なる預言者、アルシエル様……!」
「アルシエル様、どうぞ我々をお導きください!」
割れんばかりの拍手が会場を包んだ。演壇に立つ男、"アルシエル"は、それを満足そうに眺めていた。
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