【3】Killer Fairy

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〜TERRA〜 ラブの帰りを待って、会議を始めた。 モニターには、彼女の要請で世界中の錚々たるメンバーが並ぶ。 WHO世界保健機関  エマ・ヴィルト博士。 一緒に調査していたリアム・オイラー博士は、原因不明の自殺を遂げていた。 CDCアメリカ疾病予防管理センター  ジョン・マーシャル・ディオン博士。  セリーヌ・マリー・クレメンズ博士。 アメリカのスミス大統領。 NASAのエヴァン長官。 眉村首相。 厚生労働省の貞岡大臣。 DCC国際感染症センター  葛城優磨・玲衣博士夫妻。 警視庁  花山警視総監。  富士本部長、紗夜、昴、戸澤、豊川 富士本と戸澤の怪我は、まだ完全ではない。 宮本淳一、鳳来咲、土屋香織の3名は自宅謹慎中で、まだ裁判が続いている。 TERRAコーポレーション  トーイ・ラブ社長。  新咲凛、桐谷美月、アイ。 「遅れてすみません。本日は急な開催にご協力をありがとうございます。今、世界中で発生している、突然の自殺や発狂事件について調査した結果、そのうちのかなりの数が、同じ要因であるものと判断しました」 会話はアイが即時通訳し、各国に流している。 モニターには、それと思われる事件の事例が次々と映されていた。 「ことの発端は、チリ領の太平洋上に位置する火山島。現地名ラパ・ヌイ、正式名パスクア島、或いはイースター島と呼ばれる孤島で起きた、3108名の死亡事件です」 ほとんどの者は、この仮説を考えてもおらず、驚きの声が騒ついている。 「ラブさん。スミスだが、君が発表すると言うことは、信頼性はもちろん高く、世界的な破壊工作だと言う認識で良いかな?」 「スミス大統領、その通りです。敵は、ロシアを拠点とするHEAVEN(ヘブン)の残党…いや、再結集した組織と考えます」 「確かに、昨年はナスカからアメリカ、最後には太平洋海戦に至る、HEAVEN残党による大規模なテロがあったが、既に君の主導のもと、壊滅させたのではないかね?」 NASAのエヴァン長官である。 「初代HEAVEN将軍のラルフ・ヴェノコフは、地球人類滅亡こそが、この星が生き残る道だと説いた。その意思を継いだ、娘のチェコノヴァも太平洋に沈みました。しかし、彼等の思想は根強く残っていて、全てを把握することはできていません」 「また新たな主導者がいると言うのか?」 「恐らく」 この場においては、ラブらしからぬ一言。 当然追撃が来る。 「パスクワの大事件を持ち出しておいて、ただの推測で話されては困る。我々は今も必死で、原因究明に奔走しているんだぞ?」 同胞のリアム博士を亡くして、気が昂ぶるWHOのエマ博士。 同様に騒めき始める面々。 無理もない。 「これはここにいる、新咲が現地で撮影したものです」 全く動じず、幾つかの写真を見せた。 そして、2人の写真とプロフィールが出る。 「生物科学のトルストイ博士と、その妻で生物考古学のトルスタヤ博士。2人の研究施設は、マタベリ空港から10kmほど東にありました。このロシアの学者2人も、あの事故の被害者リストに…」 「謎だらけの島だ、ロシアの考古学者がいてもおかしくはない。アメリカからも同じ世界の学者が滞在していたんだ」 CDCのジョン博士である。 しかし、同胞のセリーナ博士は違った。 「生物化学者のトルストイ博士がなぜ?彼は生物学、特に昆虫の生態研究に於いては、多くの論文を出し、ノーベル化学賞も貰った程の人物です」 「その通りです。しかも2人に研究資金を出していたのは、ロシア政府の名を語った架空の団体でした」 ラブを信頼している、スミス大統領が自慢気に頷いていた。 「この研究所で、見つけたのが、大量のあの蝶と、この壁です」 例の奇妙な模様や図形が並ぶ壁。 「ここに書かれている内容を元に、2人はあの蝶の研究をしていた。そして謎を解明して…に成功したと見ています」 「この壁に意味があると?私にはただの模様にしか見えないのだが…。更に、あの蝶を生み出したと言うのかね?」 こちらも、ラブを信頼している眉村首相。 ラブがその答えに辿り着いている、その確信を持ってのフォローでもあった。 「そう、まさに生み出したと言った方が、正しいでしょう。そしてそれこそが、彼らの…いやロシア組織の狙い」 眉村を見て、目で礼を示すラブ。 「この壁はどこから?そして、何を意味していると言うのですか、ラブさん?」 セリーナがどの学者より早く問う。 他の学者や機関、NASAも知らないものである。 「島の南東にある、アフ・トンガリキの遺跡からと書かれていました。イースター島最大級のモアイ達が15体鎮座ししている有名な場所です」 モニターに、地図や写真が映される。 「書かれていた…とは、どう言うことだね?」 ラブの話は、調査に当たっている学者達にとって未知のものであり、それは彼らのプライドを侵害していた。 それを見越して、騒めきからくだらない意見が出る前に、スミス大統領が尋ねた。 「では…それの説明に入ります」 ラブの顔が、一際(ひときわ)険しさと神妙さを増した。
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