【3】Killer Fairy

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〜TERRA会議室〜 映像にはあの壁と、それを読み替えたラパ・ヌイの源語が映し出されていた。 「そう言えば、あの高慢的だった世界最高頭脳の彼女をみなくなったが…まさか失踪していたとは驚きだ」 スミス大統領の言葉に、多くが同意を見せる。 それ程に、彼女の信頼と実力は認められていたのである。 「このラパ・ヌイ語を、専門家に訳して頂きました。少し歴史的な話になりますが、重要なイースター島の秘密ですので、お聞き下さい」 「あぁ、ヴェロニカ博士が導き出したものなら、是非聞かせて欲しい」 学者達が頷いている。 「ラパ・ヌイ(イースター島)は火山島です。従って、その土壌は植物の栽培に必要な要素が乏しい島でした。ラパ・ヌイ民族が栄えた頃には、まだ良かったのです。海を見つめて立つアフ・アキヴィの7体のモアイ像。これらは島の中央部の広々とした草原に立てられています」 90813740-91e8-4f99-b4a6-e4f33317bd3b モニターに7体の現在の姿が映る。 「モアイ像は約500年前頃から造られ、当初のモアイ像が採掘された場所に限っては、植物の育成に必要なカルシウムやリン等の成分が、比較的多く含まれていました。モアイの「モ」は未来、「アイ」は生存(生きる)という意味で、守護像として建てたと記されています」 様々な憶測の中、壁画から読み取られた、ヴェロニカの説が有力となる。 「当時のモアイ像には目があり、それにより霊力(マナ)が宿ると信じられ、力を誇示する証として、各部族がこぞって建造を始めました」 ちなみに、目のあるモアイ像は世界にわずか2体しかなく、その1体が日本の宮城県南三陸町に展示されている。 実はモアイ像と日本は深い関係にあり、1960年のチリ地震の津波で倒れたアフ・トンガリキのモアイ達を、日本のクレーン会社が1億8,000万円を投じて修復した。 その感謝を込めて贈られたと言われている。 「しかし、直ぐに内陸部の石はなくなり、東部ラノ・ラクク火山に大量にある、加工が容易な凝灰岩を斜面から削り出し、モアイ像を作り始めたのです」 現在も山の斜面には、削り出し途中で放置されたモアイ像が、200体ほど残っている。 「このモアイの高さは平均4~5m、重量は平均20トン。最大級のもので高さ20m、重量90トンにも達します。これらを運ぶ為に、大量の木が伐採されて枕木として使用され、運搬路の緑も削りとられました」 その傷跡が映る。 「その結果、花の咲かない島とまで呼称されています。花が無ければ、通常の蝶達も絶滅します。しかし、あの島の蝶は究極の進化を遂げたのです。動物の死体に産卵し、その養分で成長して、湿った地中で生き永らえた」 「まさか、あり得ない❗️あの蝶は、500年の時を生き抜いたと言うのか⁉️」 「当時、その蝶達のことは、ここにこう書かれています」 WHOのエマ博士を無視して続けるラブ。 あの蝶らしい壁画が映る。 「妖精の蝶、フェアリーバタフライではなく、『滅びの羽』と。別名で『死蝶』とも訳されています」 映し出された美しい蝶の写真からは、想像できない響きに皆が騒めき、鳥肌が立ち身震いする者もいた。 「TERRAに運ばれた遺体からは、ほんの僅かな時間で、数百の蝶が生まれました。エマ博士、あなた達のラボでも同じことが起こったのでは?」 ラボに入ったエマ博士は、無数の蝶に驚き、手で必死に払い除けようとした。 そこで正気を失い、自ら細菌漏出時などの最終手段である焼滅スイッチを押し、自殺したのである。 ここで葛城博士が動いた。 「少しあの蝶について、分かったことを報告します。ラブさんの言った通り、あの遺体には数百の卵が産みつけられていた様です。そして、あの蝶は、僅かな水分と光により急激に成長し、生きられることが分かりました」 成長過程を写した映像に驚く皆んな。 「友人の生物学者佐橋博士によると、やはり毒性は見つかっていませんが、奇妙なことが4点あります。まずは、羽の鱗粉が異常に小さいことです。鱗粉には、クモの巣から逃げたり、水をはじき雨の中でも飛べるなどの利便性があり、通常は大きさ70x150μm、 厚さ数ミクロン程度の板が敷き詰められています。しかしこの蝶の鱗粉は、通常の1000分の1、つまり数nm(ナノメートル)〜数十nmで、分子レベルの小ささなのです!」 鱗粉という言葉でさえ聞き慣れないものであったが、分子レベルのサイズは普通じゃないと分かる。 「それでは、吸い込んだ途端に血管に浸潤してしまいますね。しかし、空気中或いは体内に存在する分子の影響も受け易いのでは?」 「ラブさんの仰る通り、恐らく大量に放たれても、数十秒。長くても1分で消滅か別の分子や水分に吸収や溶解されるでしょう」 「それなら、錯乱した者達が、直ぐに正気を取り戻すことに、理屈としては合いますね。なぜ錯乱するかはわかりませんが。あと3つは?」 「残りの2つは、触角やストロー状の口が無いこと。問題はもう一つ…」 少し発言が滞る。 「その代わりに、別の感覚を備えている様なんです」 「別の感覚?」 全員が、彼の発言を待つ。
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